第22話 約束
中村さんと、隊長さんである渡辺さんが、外務省の方を連れて来た。
佐々木雄太さんと言って、大学の時、国家総合職試験合格して3年目。
当然、今回の仕事は、トップダウンで決まった。
内容は、魔王に会いに行き、つなぎを付けろというもの。
家に来た時から、青い顔をしてガクブル状態。
本人は見てわかるくらい、最大限の落ち込みを見せていた。
とりあえず、皆を連れてリーゾに会いに行く。
会えなければ、話にもならない。
前回会った辺りの森へ行き、声を張り上げてみる。
「おーい、リーゾおぉー。居るかー」
3分ほど待ってみるが、出てこない。
仕方が無い。もう一度声をと思ったが、森に向けて殺気と言うのだろうか、威圧をかけてみた。
森全体から、見たことの無いような鳥や獣。虫たちが、そこら辺りから出て来て奥へと逃げて行った。
「あれ? やりすぎたか」
そう思ったら、奥からリーゾが血相を変えて出て来た。
〔なんだ。お前だったのか〕
そう言って、俺を見た後がっくりとしていた。
〔ああ。リーゾあんたに用事があって、会いに来た〕
振り返り、この人たちが…… と後ろを振り返ると、3人とも色んなものを垂れ流してひっくり返っていた。
「あれ? ああ、まあ良いか」
〔明日にでも出直すが、魔王様。えーと、テスタ様にお会いしたい。案内してくれ〕
俺がそう言うと、
〔ああ、それが良いだろう。先ほどの威圧。たぶん気が付かれたと思うぞ。俺はどこの魔王が来たのかと思ったよ〕
〔一応先に、声は掛けたんだがな〕
そう言ってほほをかく。
〔じゃあ、明日。またここへ来るよ〕
リーゾにそう言って、見送った後。
この3人をどうすればいいかを考える。
相手を刺激しないようにと、護衛はこの近くに居ない。
リーゾは考えていた。
先ほどの威圧。
そこら辺りの者じゃ、近くで食らうだけで、弱者なら死んでしまうほどのものだった。後ろの倒れていたやつらは、影響を受けたようだが生きていた。ということは、方向を決めて威圧を掛けたのか? 器用な奴だ。
あいつは一体何者なんだ? 纏う気は俺たちとは違う。
昔の伝承にあった、魔王たちの大戦。
やりすぎて星が滅びそうになった時、どこからともなく現れたと伝えられる女。
空に浮かび、こちらの攻撃など歯牙にもかけず、白き光を発して俺はつええぇと図に乗っていた魔王たちを消滅させた。
そんな、伝承をふと思い出した。
やりすぎると、奴が来る。
どこの魔王も理解をしている。
ここに来るまで、ある程度住み分けをしてバランスを取っていたが、今回テスタ様を除き、この地において南の遠方に1人しか気配が分からないとテスタ様が仰っていた。比較的近くに国を構えていた、魔王アウグストや厄介な魔王バルバラはこちらへと来ていないようだ。
今回の不思議な現象と、彼奴。
きっと特別な奴なのだろう。
そんな事を考えながら、テスタ様の許へと急いだ。
しかし今日連絡してきて、明日来るって無謀だろ。
テスタ様に会って話しをして…… 俺明日までに、さっきの所へ戻れるかな? そんな事を考えながら、リーゾは〔予定は余裕をもって、立てやがれ〕と叫びながらひた走った。
威圧を感じたらしく、数100m後方で展開していた隊員たちが様子を見に来てくれた。
すぐに対応してくれて、無線で連絡を取り、救急車を呼んでくれた。
「明日出発することになったので、よろしくお願いします」
そう言い残して、おれは家へと帰った。
そういえば、随員とかの話や、時間。
待ち合わせの時間を決めていなかったが、リーゾたちにそんな概念があるかも不明だし良いか。
電気が戻り、使えるようになったエレベーターに乗りながら考える。
3階で止まり、まこととお母さんが乗って来た。
「ちょうどよかった。お母さんが、ご挨拶に行くと言って向かうところだったの」
「元気になりました?」
「やっと、少しはましになりました。病院だと表面上は入退室カードを使って退勤するのだけれど、生活用として使える部屋が決まっているし、呼び出しはくるし、他人はいるしで、精神的にもかなり来るしやっぱり疲れはとれなくて大変だったわ。あなたたちのおかげで、このあたりの外出禁止が解けたって聞いたの。ありがとうございます」
そこで、ちょうどエレベーターが停止した。
どうぞという感じで、退出を促し後に続く。
まことは先に行き、勝手にドアを開けて待っている。
リビングのソファーに座ると、メイドさんによりお茶が人数分出てくる。
そして、まことは俺の横に座り、対面にお母さん。
「まことから話を聞いて、諏訪さんのおかげでどれだけ救われたのか、聞かせてもらったわ。本当にありがとうございます。父親はいまだ行方不明だし、私も身動きが取れずかなり不安だったと思うの。諏訪さんが助けてくれてよかったわ」
「微力ですが。それにまあ俺の方も助かっていますし」
「そういっていただければ、ありがたいことです」
そんな話をして茶をすすっていると、アルチバルドが呼んだのだろう、フィオリーナがやって来て当然のように俺の隣に座って来る。
まことと、フィオリーナに挟まれる。
最近いつものことなので、俺は気にしていなかったのだが、
「諏訪さん。このお嬢さんが例のお姫様ですか?」
お母さんとは、当然初めてか。
「ああ、そうです。フィオリーナと言います」
俺がそういうと、フィオリーナは日本語で
「真司様の妻、フィオリーナと申します。よろしくお願いいたします」
少しアクセントはおかしいが、まことのお母さんに向けてはっきりと宣言する。
当然、まことはそれに反応して大騒ぎ。
最終的になぜか、まことのお母さんから負けるなエールと取られるな宣言が出て、また、まことは俺の部屋で寝るようだ。
そして怖いことに、
「真司様。王国の貴族は、複数の妻をもって当たり前でございます」
そんなことを、フィオリーナはわざわざ日本語で言ってきた。
そしてその一言で、なぜかその場の喧騒が沈静化する。
「なんで?」
おれはそうつぶやくが、
「王国。貴族。お姫様」
そんな言葉が、周りから聞こえる。
会話ではなく、つぶやきとして。
なぜか、まことのお母さんまで……。
「ええっ、どうして……」
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