第84話 茜差す部屋で語られる真実とは(3)

 同性同士の恋愛。本来は他人がとやかく言う問題ではない。

 でも、今の世の中で理解が進んだとはいえまだまだその関係はあけすけに言える状況にない。その上、成人女性と未成年の女の子。しかも、二人は家族ぐるみの付き合いだ。大っぴらにいえる関係ではない。更には、

「関係性を考えれば二人は秘密の関係だった。しかも翌年、エリナの受験が成功すれば二人は同じ学校の教師と生徒という事になる。だから、秘密の連絡をする手段が必要だった」

 私は中学生からスマホを持たせてもらっていた。勿論代金などは親に頼って払ってもらっている。エリナも同様だった筈だ。とはいえウチの親だってプライバシーには配慮してくれてるし、勝手に私の携帯を見たりはしていない。エリナの所も同様だっただろう。

 が、秘密のやり取りをしたい二人。彼女の親の管理下にあるスマホを使い連絡手段として使うのに抵抗があったという事は十分に考えられる。

 だから高校入学を前にクリスマスプレゼントとして二人だけで使える連絡手段を手に入れたかった。

「……あなた、随分想像力が豊かね。実際に見た訳でもないのにそこまでよく思いついたもんだ。大したものよ」

 先生は本当に感心した様な顔で答えた。でも、未だその言葉は否定しているのか肯定しているのかどちらとも取れないものだ。

「ありがとうございます。じゃあ、更に話を進めますね。さてここまで話した内容を踏まえて、今の先生の状況を考えると疑問に思う点が出てきます。それは言うまでもありません。降矢先生との関係です。先生あなたは降矢先生の事を愛していたんですか?」

 先生とエリナは恋人同士だった。それにも関わらずフル先と熊谷先生は婚約した。勿論、恋人同士別れることもある。また、同性と異性どちらも好きになる人がいるという事も知っている。

 だから、先生とエリナが別れて熊谷先生とお付き合いを始めたという可能性もゼロではない。が、状況からしてそれはないと想った。

「降矢先生の事、か。まあ、愛していた……とは言い難いよ」

 私の言葉を裏付けるように彼女は言葉を絞り出すように答える

「そうですか。では、何故彼と婚約する気になったんでしょう」

「それ、前にも答えたでしょ」

「なるほど。夏休み前の飲み会で看病してくれたからでしたっけ。でも、それだけで婚約にまで至る物でしょうか」

「情が人を動かすこともあるの。子供のあなたには分からないかもしれないけどね」

 彼女は敢えて私に挑発するような言葉を返してくる。ならばこちらも受けて立つか。

「そうですね。私にはそんな気持ちはわかりません。そんな答えをいわれるくらいなら、エリナとの関係が疎ましくなったっていう方がまだ説得力がありますね。教師と生徒という関係を続けていく中で彼女の存在が色々面倒臭くなった。或いは彼女の気持ちの方が強くて重くなった? もしくは世間体を考えても彼女との関係を解消して同僚教師と結婚した方が自分の身分は安泰だ。そう考えたとしても自然かもしれませんね。だから彼女と別れたくなった。そして関係を解消する為に降矢先生と婚約した。そうなんじゃないですか?」

「そ、そんなわけ無いでしょ。寧ろそんなだったらどれだけ良かったか……」

 彼女はとても切ない思いを秘めた様な顔でそう答えた。それを聞いて少し心が痛むが、こちらの意図通りの反応にかかってくれた。

 勿論先の言葉は私が本気でいった訳ではない。でも、それに対する言葉は彼女とエリナとの関係を肯定する内容。それがまず引き出せただけでも収穫だ。そして、

「先生、これからあなたにとって大変不愉快な内容のお話をします。本来ならこんな内容の話したくありません。でも、仕方ありません。貴方と降矢先生の関係について確認させて頂きます」

「貴方にはそれも分かっているっていうの?」

「それこそ見た訳じゃありませんけどね。大体の予測は付きます。実は例の飲み会について、副担任の今宮先生からもお話を伺ったんです」

 今宮先生の話はこんなものだった。夏休み前に教師を集めての飲み会があった。お店では今宮先生の隣にフル先が座っていた。

 熊谷先生は校長先生の傍にいて離れた位置にいた。飲み会終盤、熊谷先生の具合が悪くなり、酷い酩酊状態に陥ったようだった。身体が動かせない状態の熊谷先生を校長の指示でフル先が家までタクシーで送った。その後、フル先は暫くして戻り今宮先生達がいる二次会のお店にやって来た。

「良く知ってるね。私が覚えている範囲でもそんな内容で間違いないよ」

「ありがとうございます。でも、聞いていて不自然な点があります。そもそも、熊谷先生。何故身体が動かせないほど酩酊したんですか? 普段はお酒を飲んでもそこまでの事はないと今宮先生もおっしゃってましたが」

「分からないけど疲れが出たのかもしれないね。夏休みに入る前だし気が張ってたせいじゃないかな」

 この期に及んでもまだ彼女は全てを認める気にはならないらしい。仕方がない、気が進まないが、ぶつけさせてもらうことにする。

「それにしても、身体が動かせない程の酩酊状態とは尋常じゃない気がしますけどね」

「でも、本当だったから仕方がないよ。今宮先生だってそれを見てたっていうんでしょ。嘘な訳ないじゃない」

「ええ。酩酊して倒れた事に関しては嘘とは言いません。そうではなく、私は原因を言っているんです。ずばり言いますけどね、先生薬を盛られたんじゃないですか」

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