第30話 帰路の車中で目に付いた物は(3)

 

「あ、だから今日も降矢先生と電話で話してたんですか?」

 夕方五時頃にフル先と熊谷先生がお互い理科実験室と保健室。それぞれ校内にいたにも関わらず電話で話をしていたという話。あれは校内で極力やり取りしている所を見られたくなかったので、電話での会話で済ませていたという事だったのかと想ったのだ。

「え? 電話って何の事?」

 しかし言われて彼女は一瞬キョトンとした顔をした。

「五時頃に降矢先生と熊谷先生が電話で話しをしたって聞きまして。あの、警察の人に聞いたんですけど」

 言って、ああ、この話題余り良くなかったかなと思った。

「あ、ああ。ああ、あれね、そう。確かに話はしたよ。ちょっと聞きたいことがあってさ」

「そ、そうなんですね」

 そうだ、この話は警察に聞いたのだ。警察越しに聞話を当人に伝えるという事が何だか疚しさを感じてしまう。

 そして私の気持ちを知ってか知らずか、先生は話を切り上げるよう「そう。ちょっと聞きたい事があって電話したの」と言った後「さて、そろそろ。行きましょうか」と続けた。しかし、すぐには車を発進させずスマホを取り出し画面に目を落とす。

「はい、すみません。お願いいた……」

 私はそちらに目を向けてお礼の言葉を言いかけたが意図せずその言葉は途中で止っまってしまった。

「ん? どうしたの?」

 訝し気に尋ねる彼女が持っているスマートフォン。それにはケースが取り付けてあった。そしてその形は見覚えがあるものだった。エリナが付けていたものと同じなのだ。

「いえ、えっと。あの……そのスマホケース、可愛くて素敵ですね」

「ああ、これ? うん、エリナちゃんから貰ったの。この歳で使うのは可愛すぎるかもしれないと想ったんだけど……」

「ああ、やっぱりそうなんですか。エリナも色違いを持っていました。じゃあ、お揃いだったんですね」

 確か、彼女が持っていたのはピンク色で白地のハートが付いている物だった。今先生が持っているのは形は同じ。ただ、物は白色でピンク色のハートが付いている物だ。

「うん、そう。彼女が中学一年生になってからかな。毎年クリスマスプレゼントを交換するようになってね。これが去年の彼女からの贈り物だったわけ」

「へ~、毎年ですか。本当に仲が良かったんですね。でも交換ていう事は先生も彼女に何か贈ったんですよね何を贈ったんですか」

 それは素朴な質問だった。が、先生は悪戯っぽくも又寂しくも見える表情をしながら口の前で人差し指を立てながら言った。

「それは彼女との想い出だからね。胸に秘めておきたい秘密だよ」

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