第54話  静寂と狂乱が渦巻く教室では(1)

 結局その日は一日授業にならなかった。

 あの後、程なくして警察が到着して、担任を持つ先生達は教室に散らばり生徒達は体育館に集合させれられた。 

 そして教頭先生から校長先生と降矢先生が亡くなった事。現在警察が捜査中であること、校内での捜査活動は学校を通すことになっているので、声かけがあった場合は協力する事、警備上の理由で警察官が校内に配置、巡回する予定である事などが告げられた。

 朝礼が終わり、教室から戻る際に何人かの制服警官とすれ違う。通常から考えればかなり異様な光景なのだが、この状況では少し安心感すら感じてしまう。

 そして体育館から教室に戻る道中も皆とても静かだった。誰一人声を上げる物はない。足音だけが響き渡っていた。

 教室に戻ったがそのまま授業が再開されることなく課題を出されて自習状態。普段ならふざけるものが出たりもする。余りうるさければ立場上私が注意する事もある。  

 でも、そんな必要はないくらい皆打ち沈んでいるようだった。

「ね、ねえ。トーコ。どういうことなの? な、何で校長とフルが……」

 小声がちに香が声を掛けてくる。

「私にだってさっぱりだよ」

 正直、それを聞きたいのはこちらの方だった。

「ふ、二人で倒れてたんでしょ。って事は二人でどこかから落ちたって事なのかな」

 彼女は言って窓の方へ目を向ける。

 二人の遺体の上には行事などで使われるイベントテントが張られた。更にその片側にはビニールシートをたらし遮蔽状態にで見えない様にしてある。

「それもわからないよ」

 言いながらも私はそう単純なことでもなさそうだなとは思っていた。大の大人が二人で転落するという状況がまず以上だし、現場を見ればそれだけで説明が付かない部分が多い。

 校長の遺体はフル先の真下。折り重なるように下敷きになっていた。しかも、フル先はうつ伏せ状態。二人一緒に落下したとしてそんな風に落ちるものだろうか。

 抱き合って、もしくは一人がしがみつくような一緒に落下した? いや、流石にそんな筈はない。どちらもしがみついているように見えなかったし腕も離れていた筈だ。 

 後は、一人が先に落下して更にもう一人が同じように続けて落下した?

 それこそ意味が分からない。まさか心中したとか。いやいやいやそれこそ無いでしょうよ。

 なら考えられる事は下に居た校長先生の所にフル先が落ちただ。事故か自殺か或いは誰かに落とされたかは不明だが、何らかの理由でフル先が飛び降りた。そして下にいた校長の身体に直撃。

 それも大概非現実な話だと想う。しかも、この説にはもう一つ説明のつかない点がある。

 それ即ち、フル先の首にロープの様な物がくくりつけてあった点だ。

 という事になると彼は首を絞められて殺されたのか。そしてその後突き落とされた。更にたまたまその下に校長がいた?

「先週はエリナがああなっちゃったし。本当にどうなってんだろ」

 混乱した思考を纏めようとしている私の耳に、今度は香の言葉が聞こえてきた。

 それは小声だったが、静まり返る教室内。皆に聞こえたのだろう。

 ため息や、声にならない呻き声。中には感極まってすすり泣きする子まで出てきたようだ。

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