第76話 再び狂乱する教室でのやりとりは(2)
「みんなも知っている通り、昨日校長先生と降矢先生が亡くなった。事件に関しては現在警察が捜査中だ。色々と不穏な話も聞いているかもしれないが、不確定な情報に惑わされない様にしてくれ、いいね」
今宮先生はそういうと、「この時間は自習とする。これから名前を呼ぶ者は進路指導室に来るように」と言って、まず日奈の名前を呼び、二人で教室を出て行った。
「ねえ、東雲さん」
そこへふいに熊谷君が声を掛けてくる。
「ん、なに?」
「あのさ、エリナの家へ挨拶に行く件なんだけど二見のおばさんがオッケーだって。良ければ週末にでもどうぞって言ってたよ」
話が出ていたお葬式の代りにエリナの所へ行くという件。もう話をつけてくれたみたいだった。
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ、土曜日でもいいかな」
日が重なると億劫になる気がした。なるべくなら早めに済ませてしまいたい。
「土曜日だね。時間は遅すぎなければ何時でも大丈夫だと想うよ」
「じゃあ、十四時を目途にお邪魔するって伝えてくれないかな」
「その前に本宿さんのお店にお花取りに行くんでしょ。じゃあ、十三時半に駅で待ち合わでどうだろう」
それは心強い申し出だった。全く知らない家にいきなり尋ねていくのは勇気がいる。
「ああ、一緒に行ってくれるんだね、助かるよ」
そんな話をしている所へ日奈が戻って来た。彼女は余り生気の無い顔で私に向かって行った。。
「トーコ、先生が来るようにって
「私? うん、わかった」
今宮先生が何の要件だろうと一瞬首を捻ったが、まあ十中八九事件の事だろう。
先週のエリナ。昨日の二人。私はどちらにも関わりが出来てしまっている。しかし、この間学校から正式な聞き取りなどは行われていない。だから、そろそろかなとは思っていた。
「ご苦労さんだな。まあ、そう固くならなくていいぞ。座りなさい」
進路指導室に入ると既に今宮先生が座っていた。私も言われたので対面に座る。
そして想像した通り、エリナの転落前後についての聞き取り調査が行われた。
しかも、ご丁寧に先生が持っていたスマートフォンで内容を録音しながらだという。
本来なら緊張する所なのかもしれない。でも、既に警察への状況説明を経験している為か意外に淀みなく言葉が出た。先
「そうか。大変だったな。何か、心配事や困っている事はないか」
先生は私の話が終わった後、特に突っ込むこともなくそんな言葉をかけてくれた。
恐らく警察からある程度の情報は聞いているのだろう。私の話には嘘が無い事はわかってくれたようだった。
「あると言えばありますよ。未だショックは消えないし、クラスの中も微妙だし。これからどうしたらいいかって思います」
「それはそうだよな。あんな事が立て続けにあっちゃあな。いつも通りにはいられないよな」
先生は苦笑するような表情を浮かべながらうんうん頷いてくれる。
「あの……。麻衣は、宮前麻衣はどうなるんですか」
そうだ。この段階でまず気になる事は彼女の事だった。結局授業時間が過ぎても彼女は登校してこなかったのだ。
「今、処分を検討中って所だ。何しろ、事が事だからな。事実関係を確認するまではとりあえず謹慎。追って処分が決まると想う」
「それって退学っていう事も?」
「まだわからん」
「じゃあ校長先生はどういう扱いになるんですか」
こちらは更に根が深いと想われる。学校の長たるものに相応しくない行動をとっていたことは明らかだ
「事実関係の確認が最優先って事になるだろうな。場合によっては調査委員会を開く可能性もあるという話だ」
「犯人かもしれないっていう話も出てますよね」
「まあ、それも含めて事実確認が必要だよ。ただ、本人が亡くなっているのでな。慎重に進める事になるだろう」
先生の答えは曖昧なものに終始した。が、別に隠している訳ではなくこれ以上言える事が無いのだろう。
「あの、因みに先生は昨日ご覧になったんですか? 二人の遺体は」
「ああ、見たくもなかったけどな。学校に着いたら教頭が大わらわだったよ。何しろ先週の二見の事もあるし、今度は明らかに異常な死に方だっただろ。あの段階では何が起きたかわからなかった。でも、ひょっとしたら校内に犯人がいるかもしれない。だからまずは、手が空いている教師が敷地内を見て回ったんだ」
「ああ、なるほど。だから遺体がそのままだったんですね」
「勿論、生徒達が遺体を見る可能性も考えたが、まずは安全最優先だからな。あの後、熊谷先生が気を利かせてビニールシート持ってきて遺体に被せたんだ」
「ああ、それを熊谷先生がやられたんですか」
「うん。大したもんだよ。遺体が二つあるっていう状態でさ。しかも、一人は婚約者だって言うのに、気丈な人だよな」
今宮先生は心底感心した様にうんうん頷いている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます