第60話  彼女の隠していた真実とは(2)

「お互いに地元から離れた場所で会おうって事にして、待ち合わせしたら校長先生がいたんだよ。仕事で色々ストレスがあって、発散するために若い子と一緒に遊びたいっていう訳。正直どうよとは思ったけど、私も何度かおじさんのお相手してるしね、まあ、いいかって」

「い、良い訳……ないでしょ」

 彼女は前から結構ぶっ飛んだ性格だと思っていたが正直ここまでとは思わなかった。

「ふふん。普通ならそう考えるかもね。でも、そんなもんは私が言える事じゃないもん。それにお互いの事が分かっている分、逆に安全じゃん」

「どこが安全なんだよ。そんなもん、お互いにリスクしかないじゃん」

 彼女の繰り出す言葉は理解の範疇を大きく超えていた。だが、彼女は混乱している私のそんな反応を面白がるように答える。

「そうでもないよ。謂わばこっちは弱みを握ってる様なもんでしょ」

「逆に握られてもいるって事でもあるじゃない」

「勿論、それはお互い様。どこの誰だか分からない相手とやり取りして会うより全然楽じゃん。その上で、身体の関係とかはムリっていう風にも言ったよ。もし、そんな事を迫ったりしたらこの関係はばらすって」

「そ、それで校長は納得した訳?」

 そんな半脅迫の様なまでされて尚且つ彼女と関係を結びたいと思ったのか校長よ。と聞きたい所だが、それはもう叶わないのだ。

「うん。校長先生は自分もそういう事は目的じゃない。ただ、若い娘と遊べればいいんだって、それで契約成立。まあまあ良いお小遣いもくれてたし、良い関係だったんじゃないかな」

「そんなもんを世間一般ではいい関係だとは言わない」

 憮然と答える私。彼女の言っている良いが何を意味しているのか掴みきれない。

「理解されないことぐらいわかる。でも、私はそっちに足を突っ込んじゃったんだもん。自分にとって良い事が良い事だよ」

 その言葉は本心からそう思っているようにも自分に言い聞かせている様にも、どちらともとれる口調で言った。

「そ、それで、特に何も問題はなかったの?」

 私は内心(問題だらけだけどね)と想いながらも尋ねる。

「うーん。初めはね……。土日に少し離れた駅に車で迎えに来て貰ってさ。それこそカラオケいったりとか、ご飯食べにいったりとか、ショッピングしたりとかしたの。で、段々お互いに打ち解けてくる感じになるわけじゃない」

「打ち解けるって、そんな歳上のオジサンと打ち解けるなんて事ある訳?」

 正直私が接している大人の男性なんて指降り数えてもそう多くない。そして、そんな年上男性と打ち解けている自分の姿何て全く想像もつかない。

「あると言えばあるし……。まあ、こっちは半分ビジネスの部分もあったよ。でも、お父さんとお話するくらいの距離感にはなった。と想ってたんだけど、あちらは更に踏み込んだ様な感じになったんだよね」

「踏み込んだってどういう?」

「だからさ、まあ、ホテル行こう。みたいな?」

「やっぱりそういう事になるんじゃないか」

「でもね。ほら、やっぱり外で大っぴらに会うのは躊躇するじゃん。気兼ねなく一緒に居られる場所として相応しいってそんな風に言われてさ」

「そういうのナンパとかの常套句じゃない。まさか、行ったちゃったの?」

「んっと……。たはは、まあ結局押しに負けてね」

「ちょっとちょっと、それで何もなかったって言うの? 流石にそれは無理有るよ」

「でも、何もなかったの。だからホテル入っただけ、ちょっとサービスとしてね、制服着てハグしたぐらいかな」

 学校長が制服を着た生徒と抱き合っているというその図。想像するだけでとてつもなく香ばしい匂いがプンプンとする案件だ。

「な……何やってんだよ。結局ヤバい事になっていってるじゃないか」

「ん~、そうね。結構ヒートしちゃってる感じで、グイグイ迫られるようになってきたかな」

「どうしようもないね。もう終わりにしようとかって言えなかった訳?」

「言えないよ。だって、相手が学校に居るじゃん。顔も合わせるんだよ」

「じゃあ、やっぱりリスクになってるんじゃないか」

「だ、だって。こんな事になるなんて思わなかったんだもん。今までそれで上手く行ってたし」

 彼女の様子を見て呆れるのを通り越して情けなさすら感じてきたが、しかし、彼女が誰とも関係を持っていないというのは事実なんじゃないかとも思えてきた。だからこそ、校長の行動も制御できると確信できていたのじゃないか。

「で、結局どうなったの?」

 何だかこれ以上聞いても良い方向に話は進まない気がするがここで止められてもそれはそれで困る。最後まで聞きだすしかない。

「もう、困っちゃってさ。日奈ピに相談したんだ、どうしようって」

「そんなの日奈に相談したってどうしようもないでしょ」

「私も聞いて焦ったよ。そんなことやってるなんて知らなかったし。困ったねって話してたら、そこにフル先が声かけてきたの。話、聞かれちゃってたみたいでさ」

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