第31話 帰宅後に部屋で気が付いた事は(1)
「ただいま」
「あ、姉ちゃんお帰り~」
弟のみつるが台所に立ちながらこちらに振り返って言った。
ウチは母と弟と三人暮らし。母は病院で勤務している。今日は夜勤なので既に仕事へ行っている筈だった。
「ごめんごめん。ご飯まだ食べてないの? 先に食べててくれて良かったのに」
母が仕事でいない日は交代でご飯を用意する事になっている。今日はみつるが食事当番の日だった。
「ううん。学校帰ってきてお菓子食べたからそんなに空いてなかったんだ。今、お味噌汁出来る所だよ。着替えてきたら?」
ご飯とお味噌汁だけは作ってあり、おかずはスーパーで買った総菜。その時に余ったお釣りでお菓子を買って食べたのだろう。
「うん、分かった。ちょっと待ってて」
私は自分の部屋に入ると部屋着のパーカーにスウェットという楽な姿になる。と途端に気が抜けてそして、そのままベッドにへたり込んでしまう。
「はあ、くたびれた」
そんな独り言がついつい漏れてしまう。
放課後から起きた出来事が頭を巡るがそれらを脳内で処理するには時間がかかりそうだった。
ただ一つ、今この瞬間。あの記憶がよみがえる。茜色に染まる校舎。その中に飛び降りたエリナの姿。それがありありと思い出される。
「エリナ、死んじゃったんだ」
自分の言葉が胸を串刺しにした様に感じる。
何で? だってあんなに話をしたよ。とても活き活きとしていたよ。
そうだ、彼女はいつに無く気力があるように感じた。いずれにしろこれから命を絶とうという風には見えなかった。
それなのにどうして? どうして? どうして……。
頭の中でその言葉が延々とループした。
悲しみと寂しさに加えて怒りにも似た感情も沸き立ちそうになった。と、そこへヴィーン。ヴィーンという鈍いバイブ音が聞こえてきた。
はっとしてスマホを見てみる。すると、メッセージアプリの通知が何件か溜まっている事に気づく。クラスの友人からだった。内容は恐らくエリナについてだ。が、流石に今の段階で彼女の事をやり取りする気にはなれない。後にしようと想った所で思い出した。
そうだ、滝田さんに写真を贈る約束になっていたのにまだ送っていない。今やらないと又忘れてしまいそうだ。
そう思いながら送る前に一度写真を確認してみる。特に何の変哲もない夕景の写真。ただ、この景色の中にエリナは転落したと想うと何だか胸がチクチクする感じがする。
そんなことを考えても詮無いので、頼まれごとをこなしてしまおう。想いながら操作しようとしたら何気なく親指が写真の上部にポンと当たってしまう。
すると、写真の設定メニューが開いてしまった。そんなものに用はないのですぐ閉じようと想った。が、私はそこに表示された文字に目が釘付けになった。
そこには撮影された年月日そして17:31と記されている。
そこで私は確認の為メッセージアプリをタップした。クラスの連絡用グループからエリナのメッセージを探し出す。やはり間違いない。17:33だった。
私は写真をとった直後に窓の外をエリナが落ちていくのを見たのだ。つまり転落時刻は31分。1分くらいのラグはあるかもしれないが、メッセージ書き込みの時間は それより後ということになるのじゃないか。
実際の所はどうなのか、メッセージアプリに書き込みが反映されるのに何らかの理由で時間が少しずれるということもあるかもしれない。例えば電波状況が悪かったとか……。
まあ、今ここで考えても仕方がない。とりあえずメールには確認できた時間も記載して添付送信することにした。
「姉ちゃん。ご飯冷めちゃうよー」
みつるの呼び声が耳に入って来た。いけないいけない。ご飯の準備してくれてたんだっけ。想いながら「ごめーん、今行く」と答えて台所に向かった。
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