第74話 進路指導室で開かれた捜査会議の内容は(6)
「校長先生にエリナを殺した疑いが掛かってるんですか?」
「そうは言ってないわ。でも、色々可能性は考えないとね。校長先生は十七時から相談室で話をしていたと言っていた。彼女達が嘘をついていてたなら犯行は可能よ」
つまり、相談室に居たことがまるっと嘘であれば校長の時間は空くことになるが。
「校長先生の行動は分かってるんですか」
「職員会議が終わったのが十六時四十五分。校長先生は終わった後も会議室に少しの残っていたらしいわ。出たのが五十分過ぎ頃かしら。もし、そのまま上に上がれば十分な時間が取れるでしょう」
「でも、一階から屋上まで上がるのに誰か見られる可能性はありますよ」
「階段で上がればその可能性もあるけれども、職員用のエレベーターがあるでしょね」
「ああ、そういえばそうですね」
確かに階段脇にエレベーターがある。教職員と搬入業者が使うためのものだ。
たまに食堂の業者が教職員出入り口の前にトラックを止めているのを見た事があった。スロープを使って台車を乗り入れたらすぐ目の前がエレベーターだ。
確か階段下のスペースには台車も納めてあるのを見た気がした。
「生徒さんは使えないのよね。でも、校長先生が乗っていても不審には思われないでしょう」
「確かに、可能といえば可能ですけど。校長先生がエリナを殺す理由は何でしょう」
「校長先生は初めから殺すつもりがあったのかは分からないわね。もしそうだとしたら二見エリナさんが呼び出したという事になるでしょう」
確かに、その点は既に考えた通りだ。エリナが誰かとの密会を目的としていたなら、呼び出したのは彼女という事になるのだろう。
「それで校長先生を呼び出した。それって理由があった事になりますけど」
「そんな所で話をする以上内緒話って事でしょ。校長先生が秘密にしたい事っていえば、必然的に答えが導き出されるわよね」
滝田さんは意味深な顔で私に顔を向けた。
「パパ活の件ですか。まさか、エリナも校長相手にそんな事をしていたなんていうんじゃないでしょうね」
いくら何でもそれはない。根拠がある訳ではないが、エリナがそういう事をするとは絶対に思えなかった。
「まさか。そんなことは言わないわよ。既に彼女と校長先生、双方のスマートフォンも確認されている。二人が個人的に接触していた形跡は見つけられていないわ」
「そうですよね。じゃあどういうことですか」
私は安堵した声を漏らしてしまう。絶対にないとは言ったものの万が一そうした証拠が出てきてしまっていたらと一抹の不安があったからだ。
「彼女と直接関係は無くても、何らかの理由でパパ活の事実を二見さんが知った。そして問い詰めようとしたのかもしれない」
確かに、その内容の方が彼女がパパ活相手だったというよりは尤もらしく聞こえる。
「でも、何のためにそんな事をするんですか」
パパ活相手で困っていたのは宮前麻衣。エリナとは余り良好な関係ではなかった。その彼女の為にわざわざ屋上の鍵を盗んでまで骨折りするとは思えない。
「さあ。どうかしらね。そこについてはもう少し詰めるべきかもね。でも、何にせよ。問い詰められた校長先生は逆上して彼女を突き落としたというストーリーは成立しない?」
「それは……不可能ではないでしょうけどね」
私はモヤモヤを抱えながらそう答える。ずっと思っていた事だ。
それは滝田さんは肝心な事は言わないという事。事件の捜査で分かった事実。それはエリナの件も校長とフル先の件についても詳しく教えてくれていた。
聞いてもいないのに校長犯人説もぶちあげて言ってきた。
でも、肝心な部分は胸に秘めている。何かアタリはつけているのだろうが、それは絶対に教えてくれない。
「まあ、飽くまで可能性の一つよ」
ほら、やっぱりはぐらかした。
「他に疑わしい人とかはいないんですか」
私もこれ以上そこに引っ掛かっていても仕方がないので話を進めることにした。
「放課後の学校っていう空間はね人目が多いでしょ。一人っきりでいるなんてことの人の方が少ないのよ」
確かにそうかもしれない。放課後残っている生徒は殆ど部活、委員会活動だったり、または友達と遊んだり話をしたりとかもあるだろうが、いずれにしても一人残るという事はあまりない筈だ。
職員にしても職員室に居れば誰かしらの目に付くだろうし、部活の顧問をしていれば生徒の目がある。
だから、密会などがしたいのであれば屋上などが相応しい訳で。
「でも、降矢先生は一人だったんですよね。理科実験室に居たって聞きましたよ」
「ただ、隣にはあなたのクラスの子達が料理してたんでしょ。扉をあけ放ってたからその前を通ったら分かるという話だったわ。彼は少なくとも十七時二十分くらいの転落ギリギリまでは理科準備室にいたという証言を得ている」
それはありさから私も聞いていた。途中でフル先も顔を出したとかとも言ってたっけ。
「ああ、そうみたいですね。皆が帰る時間まで電話をしてたって聞きました」
「そう。電話なのよね」
滝田さんはそこでまた考え込むように言う。よほど気になるようだった。
「えっと、二人はずっと話してたんですか?」
「いえ。途中、二回くらい切ってかけてを繰り返しているみたいね」
当然か。二人共一応仕事中だった訳で十七時から半までずっと電話しっぱなしは流石にありえない。となると、例えばどちらかが電話で何かを尋ねるか頼みごとをした。そして、一旦切ってそれについての返答をした。という様なところだろうか。
「何か確認事項があったって事なんですかね」
「うーん。状況から見たらそういう事になるのかな」滝田さんは一瞬首を捻りながら考え込んだが、「まあ、それについては熊谷先生からもう少し話を聞いてみたい所ね」と続けた。
その後はいくつかの確認事項。今日のクラスの様子についての説明などをつらつら話したが、目新しい話も特になく、暫くして散会となった。
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