第56話  静寂と狂乱が渦巻く教室では(3)

 空気が張り詰めたそんな中、副担任の今宮先生が入って来た。

「皆、待たせて済まなかったな。そのままで聞いてくれ。今日は自宅学習という事になった。それから、今から名前を呼ぶ者は警察が事情を聴きたいということなので残ってくれ」

 言って、名前を呼びあげる。然二人の遺体を目撃した私も含まれていた。そして他に日奈や麻衣の名前もあった。

 先生は「名前を呼ばれた者はそのまま待機するように」と言ってまた教室を飛び出していく。

 みんなノソノソと課題のプリントを鞄にしまいこみながらもどうにも腰が重いようだった。その中で香が口を開く。

「ね、ねえ。熊谷君。お葬式は無理かもしれないけどさ、例えば他の時にエリナのお家へ手を合わせに行ったりとかって出来ないのかな」

「人数にもよるかもね。親しい人はお別れを済ませたんだよ。昨日僕も行かせてもらったし、姉ちゃんも行ったみたいだから少人数なら大丈夫かもしれない」

 とはいえ、誰が行くのか。有志を募るとしたら希望者の数がかなり出てくるかもしれない。

「誰か代表で行って貰うのはどうかな。皆でお花とか用意して持っていって貰うの」

「それなら大丈夫なんじゃないかな。聞いてみてあげるよ」

 香の言葉に優斗君はそう答えてくれた。が、それはそれでややこしくないだろうか。

「でも、代表って言ってもさ誰か相応しい人がいるかな」

 言って私は首を捻る。エリナは日奈グループから抜けて以降は色々なクラスメイトと交流していた。が、それは特に仲が良い誰かがいた訳でもない事を意味する。

 となると誰がそれに相応しいか。誰が選ばれても角が立つのではないか。そんな事を想っている私に向かって香が言った。

「トーコが行ってよ」

「わ、私? でも、私でいいのかな」

 確かに、彼女とは色々接点はあった。何より、彼女の最期を看取ったのは私ということになるのかもしれない。でも、そんな私でいいのだろうか。

「他に居ないでしょ。ね? みんな、トーコに代表で行って貰うって事で良いよね?」

 私は戸惑いつつ辺りを見回すがクラスのみんなからは「意義ナーシ」「東雲さんが行ってくれるならありがたいな」「トーコ行って来てよ。お願い」などと口々に発せられた。

「わかった。皆がそれでいいというなら、行かせてもらうよ。熊谷君、連絡お願いしてもらえるかな」

「分かった聞いてみるよ」

「後はお花だよね。どうせならさ、送り出す用だから可愛いのが良いな」

「持っていくのってお供え用の仏花って奴でしょ。可愛い奴なんてあるのかな」

 香の言葉に私は少し呆れたような声を出してしまう。謂わば仏さまにお供えるする用のお花だろう。貧弱な私の知識では思い浮かぶのは菊の花が精一杯だった。

「な、ないかな? お花屋さんでなるべくそういうの見繕ってもらえたりするんじゃない」

 香がそう返事をしたすぐ後、割って入るように言葉が差しはさまれた。

「大丈夫。可愛い仏花もあるよ。そういう風にパッケージされてるものもあるし、アレンジメントで造る事も出来る」

 そう声を上げたのは本宿ゆりなだった。

「ああ、あなたのお家。お花屋さんだったよね」

 私の言葉に彼女はヘッドホンを首にひっさげながらコクンと頷く。

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