第49話 日曜のランチタイムで過ごすひと時は(7)

「その旧校舎に相談室があるでしょ。そこで校長先生とお話してたらしいわ」

 相談室とはスクールカウンセリングを行う為の部屋の事だ。週二日カウンセリングの先生が来て話を聞いてくれる。その他の曜日も教師が生徒から相談事項を聞き取ったりする場所となっていた。

「日奈と麻衣の二人共ですか?」

「ええ。校長先生も認めているし、秋田さん達も相談室に行く前に担任の降矢先生にと副担任の今宮先生。それから熊谷先生にそれぞれ伝えてから向かったそうなの。終了時間は五時十五分くらいね」

 その後、校長先生は先に部屋を出たが残った二人は暫くそこに居たという。そして三十分過ぎ頃に後出入り口に向かった。そして玄関口で用務員さんと鉢合わせしているらしい。

「その時間ははっきりしてるんですか」

「用務員さんはそもそも本校舎前で事故が起きたっていう一報を聞いて向かう所だったの。つまり二見エリナさんが転落した直後という事になるわ」

「という事は本校舎では騒ぎが起きてましたよね。日奈達は気づかなかったんでしょうか。

「何か騒いでるなって思ったけど、わざわざ確認する気はしなかったとの事ね」

 旧校舎の出入り口校門は裏口が近い。そちらは本校舎の正面口とは真反対だ。なので、利用者は大体そちらから帰る。筋は通っているか。

「一応聞いておきたいんだけど、十五分くらいに旧校舎を離れて、屋上に上って二見さんを突き落とした後、また旧校舎に戻って用務員さんにその姿を見せたなんて事あり得ると想う?」

 その質問はつまり日奈達のアリバイについてどう思うかという意味だ。だが、私は即答する。

「無理でしょうね。そもそも用務員さんが現場に向かった状況が被るって保証もなくないですか」

 用務員室は旧校舎だが、用務員さんは校内であちこち仕事をしている事も多い。事故が起きて呼ばれるタイミングを計るのは難しいだろう。

「それは又別な証人を立てる予定だったのかもしれないわよ」

「つまり日奈達が、犯人だというんですか」

「その可能性があるかを知りたいの。ちょっと引っ掛かるのはね。さっき言ったじゃない。わざわざ教職員三人に自分達が旧校舎にいるって言って回ってた訳よ」

 確かに、それは不自然と言えば不自然かもしれない。でも相手は校長先生なのだ。相談室の利用許可の問題があるとは思えない。

「なるほど、作為を感じ無くもないですよね」

 しかもそれは事件の直近で起きている、不審に思うのも無理ないか。

「まね。どうかな?」

「でも、日奈達がそもそもエリナの所在を知り得たんでしょうか。わざわざ鍵を持ち出して屋上にいるなんて分かりようもないですよ」

「そうかしら。例えば、当の二見さんから聞いていたらどう?」

「聞いていたらって……あ」

「そもそも彼女達って揉めてたのよね。相当クラスの中の空気が悪くなっていたっていうのは複数人から聞いているの。だから例えばだけど、誰にも邪魔されない場所で話し合いをしたいっていう風にどちらかが持ち掛けたとか」

「ん~。それで屋上を選びますかね。バレたら結構リスキーだと想うんですけ良いど」

「でも、実際鍵は持ち出されて二見エリナさんは屋上から転落してるのよ」

「えっと……。ちょっと待ってください」

 仮にだ。この事件が日奈達によるものとする。相談室に居たのが五時十五分。二人が旧校舎を出て、本校舎に入り、屋上へ上がってエリナを突き落とし、また同じルートを辿り旧校舎の出入り口へ戻る。

「やっぱり無理ですよ。時間的な問題もあるし、逆に移動を用務員さん以外の人に見られる可能性だってあります」

「やっぱりそうね。分かったわ、ありがとう。となると秋田日奈さんと宮前麻衣さんはシロって事で良いようね」

 私の答えに対して滝田さんはやけにあっさりとした返事を返した。

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