第67話 保健室で聞かされた彼女の話は(2)

 これははったりカマかけだった。

 前回、滝田さんと会った時にエリナが病院に通院していたという話は聞いた。何科にかかっているかは答えて貰えなかったが、内容、症状からすれば、精神科などが該当すると想い調べてみたのだ

 結果、月ヶ瀬病院にはメンタルヘルス科がある事を知った。恐らくこれだと想像が付く。

 更にエリナが通院しているとしたら先生は知っている可能性が高い。養護教諭であり幼馴染だ。何か相談しているに違いないと踏んだのだ。

「以前、母に頼まれごとをして病院に行った時、エリナに偶然会ったんです。それで教えて貰いました」

 私は更に難なくスラスラと嘘を並べ立ててみせる。

「そこまで話してたのね。全然眠れなくて困ってるんだって言われたの。見た目はそんな風には見えなかったから意外だったけどね」

 一応、私のでまかせは尤もらしく聞こえたらしく先生は普通に話を続けてくる。

「はい、授業中とかもそんな素振りは無かったんで私も驚きました」

「寝る前に携帯電話とかを見るのやめたら。とか、コーヒー飲みすぎたりしたんじゃないのって言ったんだけど【そんなのしてない。でも、全然眠れない日が続くの。何だかそれで不安になっちゃったり、気分も落ち着かない。でも理由はわからないし、どうしよう】って、二週間くらいずっと言い続けてたんじゃないかな」

「二週間不眠を訴えてたんですか。それは確かに長いですね」

 それが本当なら確かに相当きつそうだ。ただ、私が思い出す限りその様な素振りをみせていた記憶はない。

「見た目はそんなに変わり無さそうなんだけどね。でも、流石に心配になっちゃってね。例えば最悪、睡眠導入剤とか服用するっていう手もあるけど私もそっちは専門じゃないからさ。薬を飲むにも一度専門で診てもらった方が良いかなってアドバイスしたの」

「そうだったんですか。それで彼女病院受診してから良くなったんですか」

「とりあえずお薬を出して貰ったみたいでね。様子見って事になったみたい」

「へえ。そんな事になってたなんて気づきませんでした」

「まあ、ね。でも、表にはそういうのを出さないタイプっているから。特に彼女、昔から我慢しちゃうタイプだしね」

「我慢……ですか。それも意外ですね。いつもクレバーだなって思う事はありましたけど」

「そう装うのが上手かったって事じゃないかな。同年代の子には大人っぽいとか早熟に見えてたかもしれないけど、私の前では年相応の女の子だったよ」

「……」

 だったと過去形で言葉が結ばれた意味。それを彼女が親しかった熊谷先生が口にした事。それは彼女がもういないという事実を改めて思い起こさせてくれた様な気がして暫く沈黙が漂う。

 その空気を変える為に話題を変えようとしたのかもしれない。先生が口を開いてこういった。

「あ、そういえば月ヶ瀬病院には結構行ったりしてるの?」

「いや、そんなに頻繁にいく事はありませんけど」

 もう少し私達が小さい頃は母の休憩時間を見越して行って一緒にご飯を食べたりしたこともあったが、最近ではそういう事も無くなってしまった。

「そう、じゃあ、病院で降矢先生とは会ってないのね」

「え? 降矢先生も病院にかかってたんですか?」 

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