第78話 生花店で仏花を受け取る時にしたやりとりは(1)

 あれからようやく通常授業が再開されても、学校全体の雰囲気は打ち沈んだ様な空気が蔓延していた。皆、学校から一歩外へ出れば好奇の目にさらされるんじゃないかという恐れを抱いている様だった。

 教師も生徒もそろそろ限界を迎えながら、どうにか迎えた週末土曜日。私は約束通りエリナの自宅に向かうことになった。

 亡くなった友達にお花を手向けに行くと母に伝えたら、じゃあこれも一緒にご遺族に渡しなさいと言ってお香典の袋を渡された。その段階で、少し気が重くなった。

 娘を亡くしたご家族ご挨拶するという事の心構えをどうしたらいいかが分からなかったからだ。これはクラス皆の想いを伝える為の儀式だ。それを私は託されたのだから、ここで折れるわけにはいかない。

 まずは、彼女の自宅に向かう前に本宿さんの所へお花を受け取りに行かなければと思い向かう。

 本宿生花店は駅の北側に位置するわりと大きなお花屋さんだ。時間は十三時。お店に入ると彼女は、

「いらっしゃい。出来てるよ」

 と言って生花を持って出てきてくれる。花の種類は分からないが、シロを基調にピンクと紫のお花が添えてありそれがとても映えている。

「ありがとう。わあ、可愛いね。やっぱり頼んで正解だったな」

「そう? ありがとう。でも、トーコも大変だね。ぶっちゃけ面倒なお願いだったんじゃないの」

 お店の中だからかいつも学校で付けているヘッドホンは外してある。そのせいかいつもより彼女の姿は小さく見えた。

「うんん。やっぱり私もエリナにはちゃんとお別れしたいと思ってたからさ。こういう役を貰って良かったと思ってるよ」

「そっか。まあ、そうだよね」

 彼女はそのお花をラッピングしながら言う。それに対して私は気になってた言葉を吐き出してしまう。

「元宿さんもエリナにお別れしたいって思ってた?」

「え? そりゃ当たり前でしょ。クラスメイトがあんな事になったんだからさ」

「それは、そうなんだけどね」

 なんて事の無い口調に私はそれ以上どう言葉を続ければいいか迷ってしまう。そんな私の言いたいことを察した様で彼女は自然に話を続けてくれた。

「うちらのグループ彼女とあんまりいい関係じゃないから、そうじゃないって思ってたとか?」

 まさしくズバリだった。日奈と麻衣の関係が最悪と言っていい状態に落ち込んでいたのはほぼ確実だ。でも、それ以外の二人はどうなっていたのか気になっていたのだ。

「うーん、そうだね、貴方が彼女の事どう思ってたのかは気になってたかな」

 ここまで来て嘘をついてもしょうがない。彼女も分かっている筈なので正直に言葉をぶつける事にする。

「別に私はあんまり気にしてなかったし、エリナも私にはそんな変な態度はとってなかった筈だよ。彼女が揉めてたのって日奈と麻衣でしょ。私は何にもしてないし。顔合わせたらちょこちょこ喋ったりもしてた。小学校時代から顔見知りだしね」

「え? そうなの?」

 そんな話は初めて聞いた。つまり彼女とエリナも幼馴染だったということだろうか。

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