第六章 冒険者は命がけのお仕事です

29. お薬も大分売れるようになってきた

 ユーシュリア公爵って人の許可が出てわたしのお薬はこの街の中で売る事ができるようになった。

 あくまでも売る事ができるのはこの街の中だけで、この街以外で売り買いするのは違法行為らしい。

 よくわからないけど大変だね。

 ともかく、わたしはお薬を売る事ができるようになったのでバンバンお薬を作る事にした。

 基本の傷薬から各種鎮痛剤、解熱剤、消臭剤などそれなりに作ったつもり。

 そしてそれらは街の人たちにも好評なんだ。

 最初はなかなか受け入れてもらえなかったけど、冒険者さんたちが傷薬とかを使っているのを見てわたしのお薬を使ってくれる人が増えていった。

 使った人の結果を見て新しい人が使ってくれてとどんどん輪が広まっていったの。

 最初に使ってくれた人はありがたいけど、あとの方の人はわたしを信じてくれてなかったのかな?

 失礼なの。

 あと、シシ連れなら街中を出歩く事も許可してもらえた。

 暗がりには近づかないように言われたけど、そこまで子供じゃありません!

 そんな日々も三カ月が過ぎ、フルートリオンの街にも秋の気配が感じられるようになった。

 フルートリオンの冬は雪がうっすらと積もってそれなりに寒いんだって。

 街の出入りをする人は冒険者さんくらいになるから街も静まりかえるらしいけど、どんな感じなんだろう?

 退屈じゃないといいな。


「おや? ノヴァちゃん。散歩かい?」


「あ、タフィさん。こんにちは」


 街を歩いていたらメインストリートの方に来ちゃっていたみたい。

 八百屋のタフィおばさんに声をかけられちゃったよ。


「はい、こんにちは。今日はなにか買っていくかい?」


「んー、今日はいいです。タフィさんは何か必要ですか?」


「あたしも今日は必要ないね。この間買った薬がまだ残っているからさ」


「わかりました。無理しないでくださいね」


「あいよ。ノヴァちゃんもぼーっとして街を歩くんじゃないよ。聖獣様が守っているとはいえ、用心するに越した事はないからね」


「はーい」


 考えごとをしながら歩いていた事、ばれていたらしい。

 気を付けなきゃ。

 さて、メインストリートまで来たならついでに御用聞きをして回ろう。

 まずは一番近くにある武具屋さんからだね。


「すみませーん。ジュンキさんいますか?」


「ああ、いるぜ。って、ノヴァの嬢ちゃんじゃないか。今日はどうした? 武具の必要はないだろう?」


「ちょっとメインストリートまで来たついでに御用聞きをと思って」


「御用聞きか。そうだ、丁度さび止め用のオイルを切らしていたんだ。錬金術で作れるか?」


「さび止め用のオイルですね。……大丈夫、作れます!」


「そうか! いや、助かるよ。この街じゃさび止め用のオイルなんて生産していないからな」


 なるほどなるほど。

 そういう需要もあるのか。

 またひとつ賢くなった!


「それで、いつ取りに行けばいい?」


「えっと、二日後にしてください。さすがに明日だと自信がないので」


「わかった。じゃあ、二日後の昼過ぎ、雑貨屋まで行くよ。ついでだから、スピカさん家のナイフも研いでやろう」


「わ! ありがとうございます!」


「いいっていいって。じゃあ、オイル頼んだよ!」


「はい!」


 さび止め用オイル、忘れずに作らなくちゃ。

 次は……鍛冶屋さんかな?


「ごめんくださーい!」


「なんだあ? 鍛冶屋はガキの遊び場じゃあ……ってノヴァか」


「相変わらずですね、グラスルさん。そんなに子供が来るんですか?」


「まあなあ。光っている物がどんどん形を変えていくんだ。面白いと思うのはわかる。俺だってそうだった。だがなあ……」


「あはは……。グラスルさん、お薬の注文はありませんか?」


「薬か? 焼けど薬はこの間買ったのが残っているし傷薬だって残っている。他に頼むものはなぁ……」


「そうですか……武具屋ではさび止め用オイルを頼まれたんですが」



「なに? ノヴァの嬢ちゃん、そんなものまで作れるのか?」


「はい。作り方は頭の中に浮かびました。あとは材料を揃えて作るだけです」


「作り方がわかれば作れるというのもよくわからんが、さび止めが作れるなら儂もひとつほしい。やはりこちらでもさび止め用のオイルは使うからな」


 へえ、こういうものっていろいろなところで需要があるんだ。

 知らなかったよ。


「わかりました。グラスルさんの分も明後日までに作っておきますね」


「頼んだ。あとは小分けにしたさび止めを売れりゃあなぁ」


「小分けに?」


「冒険者どもの手入れ用にだよ。毎日研ぐようには言っているが、仕上げにさび止めで軽く拭いてもらいたいのが本音だ。だが、この街じゃさび止め用オイルなんて高くて手に入らなかったからな」


 そっか、そっちにも需要があるんだね。

 なら、いっぱい作っちゃおうか。


「それなら多めに作りますよ?」


「んー、とりあえずいまはいいや。冒険者どもに毎日の手入れを教え込むのが先決だ」


「はぁい」


 残念、売り込みのチャンスだったのに。

 鍛冶屋での御用聞きはこれで終了。

 次は精肉店に行ってみよう。


「よう、いらっしゃい、ノヴァちゃん」


「こんにちは、イェンスさん」


「ノヴァちゃんがうちに来るなんて珍しいな。スピカさんも肉は食わないのに。なんの用だい?」


「お薬の御用聞きに来ました」


「御用聞きか……そうだな、前に作ってもらった置き型の消臭剤。あれをまた作ってもらえないか?」


「構いませんよ。でも、もう効果が切れ始めましたか?」


「いや、加工場においてあるんだがよく臭いが取れてね。他の場所にも置いてみようってことになったんだ」


「わかりました、作っておきますね。でも」


「でも、どうしたんだい?」


「お肉って腐ったときの臭いもわからなくなったら困るんじゃ?」


「……そっちもあったか」


 イェンスさんはちょっぴり抜けている。

 まだ若くて精肉店を営んでいるしっかり者なんだけど、周りからは「考え方が先進的すぎていけない」って言われているんだって。

 新しい事を考えるのがそんなに悪い事なのかな?


「さて、最後は服飾店かな。失礼します」


「おや、いらっしゃいませ、ノヴァちゃん。服のお買い求めですか?」


「違います、リーファスさん。お薬の御用聞きです」


「薬ですか。皮のなめし剤はこの間売ってもらったばかりなので足りていますし、これといって要望はありませんね」


「そうですか。残念」


「申し訳ありません。……そうだ、錬金術士とは毛皮から布を作れませんか?」


 毛皮から布?

 リーファスさん、一体どうしたんだろう。


「この季節になると毛布の需要が増えてくるんですよ。ただ、古い毛布の買い換えや新しい毛皮の持ち込みなど、素材がまちまちなのです。特に持ち込まれる毛皮は冒険者が魔物を倒して剥ぎ取ってきた物が多いため傷も多い。どうでしょう、これらを使い一枚の大きな毛布に出来ませんか?」


 大きな毛布か。

 うん、出来そうだね。

 錬金術なら簡単だよ!


「出来ます! でも、一枚の大きな毛布でいいんですか? ある程度ならサイズを細かく作る事も出来ますよ?」


「いえ、サイズを調整するのは私にお任せを。注文ごとにサイズが違うので、ノヴァちゃんには難しいですよ?」


「あはは。それじゃあお任せします!」


「ええ、お任せあれ。私からの希望は以上です。毛皮はいつくらいから持ち込めるでしょうか?」


 毛皮か……。

 錬金術でパパッと合成すればいいだけだけど、一応洗った方がいいよね。

 ああ、でも、それだったら洗剤と一緒に錬金術で合成しても一緒なのかな?

 じゃあ錬金術で洗剤を作る時間を考慮して……。


「一週間後くらいからで大丈夫ですか?」


「そんなに早くからで大丈夫ですか? もっと遅くとも大丈夫ですよ?」


「一週間もあれば準備できるはずです。任せてください!」


「そういうことでしたらお任せしましょう。最初は少量から始めさせていただきますね」


「はい!」


 これで服飾店の御用聞きも終了。

 わたしって結構街の役に立てるようになってきたんじゃないかな!

 なんだか嬉しいかも!


「なーお」


「あ、シシ。ごめんね。最後は冒険者ギルドだよね」


 うん、冒険者ギルドにも一週間に一度顔を出している。

 はあ、行きたくないなぁ。

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