67. 医療ギルドの本拠地はどこにする?
ユーシュリア医療ギルドの草案は公爵様たちの間でまとまった。
あとは本格的にギルドとして動き出せるように準備するだけらしい。
ただ、そこにも問題点はあるらしく、本拠地を置く街をどこにするかが問題なんだそうだ。
これには公爵様を初め、モーリーさんもローレンさんも頭を悩ませていた。
「あの、そんなに問題なんですか? 公爵様」
「おお、ノヴァには難しい話か。ノヴァよ、もしこの医師ギルドが動き出せば大量の人が集まることはわかるな?」
「はい。わかります」
「人が集まるということは、それに伴いモノ、つまり食料や日用品、生活雑貨なども集まってくる。結果としてそれらはひとつの金を生み出す財宝なのだ。ここまではよいか?」
「わかりました。人がたくさん集まるとたくさんお金も集まるんですね?」
「そういうことだ。そして、金が集まればその街の経済が潤い発展する。となれば、医師ギルドの本拠地を置く街は慎重に選ばねばならん。新たな巨大産業を置く街、下手な場所には置けぬ」
うん?
どこにでも置いちゃダメって言うことかな。
どうしてなんだろう。
そこも聞いてみると、公爵様は答えてくれた。
「新たな産業が生まれ、新たな富が発達するということは街にとってもそうだが、領地にとっても重要な意味を持つのだ。なにせ、税収が上がるのだからな。国からの覚えもめでたくなるし、領として使える金も増える。なにより、自分たちも裕福になる。貴族どもにとっては是が非でも自分たちの街に欲しがるだろう」
うわぁ、ものすごく俗っぽい理由だった。
でも、たくさんのお金が動くことはわかったし、医師ギルドのギルド員が増えれば増えるだけ食料も日用品も、それに人手だって必要になる。
街が発展するには欠かせない要素なわけだ。
そんな魅力的な果実を放っておくことはできないんだろうね。
俗っぽいけど。
「しかし、どうなさいますか、公爵様。医療ギルドの本拠地は早々に決めなければなりません。ですが……」
モーリーさんの問いかけに公爵様も溜息をつきながら応じた。
「わかっておる。こんなことを私の配下の貴族たちに話せば自分たちの治める街によこせと奪い合いが始まるのは必定、そうなればすぐになど決まらぬ。最悪、裏で暗殺合戦が始まってもおかしくはない。それほどの果実だ」
暗殺合戦って……。
そんなに医療ギルドの本拠地がほしいのかな?
「そうなると我が直轄領になるが、基本的に我が直轄領の街は栄えておる。一部を除いてはな」
「一部。ああ、そうなりますな」
「今回はその一部に本拠地を置く。置くべき理由も用意できるのだ。反論など出来はしまい」
公爵様の直轄領ってそんなに栄えている街が多いんだ。
フルートリオンとは大違いだね。
「今回、ユーシュリア医療ギルドの本拠地を置く街はフルートリオンで決定だ。これは公爵の決定として皆に伝える。覆すことは許さん」
「え?」
私はマヌケな声を漏らしてしまった。
フルートリオンの街に医療ギルドを置くの?
なんで?
「フルートリオンにギルドを置く理由はこうだ。フルートリオンは、夏涼しく、冬はそこまで寒さが厳しくない地域、薬草栽培を行う実験地域としては申し分ない。冬でも採取できる薬草もあるが、冬には採取できない薬草もある。しかし、越冬すればまた薬草が採取できることはよく知られている。それがなぜなのかを調べるのにも都合がいいだろう」
なるほど、よく考えてらっしゃる。
フルートリオンの街って夏場は涼しいし、冬もきちんと暖かい恰好をして家の中にいればそこまで寒くもない。
雪は降るけれど、深く降り積もることなんて稀だ。
深く降っても靴が埋まるくらいでしかないんだよね。
そう考えると、フルートリオンの街っていろいろと便利なのかもしれない。
「それに、フルートリオンには現在主要な産業がなく、街の規模は大きいのに土地はかなり多く余っていると聞く。そこを有効活用してギルド本部や薬草園、ギルド員寄宿舎などを建てていくのだ。ほかの街ではそこまで広い面積を用意できないからな」
そう言えばフルートリオンって、街壁の中でもガラガラで農地にすら利用されていない土地が結構あるよねぇ。
そこを有効活用してくれるならありなのかもしれない。
あとは街のみんなの反応も気になるけど、公爵様のご判断だし逆らえないのかな?
「以上が表の理由。ここから先は裏の理由だ」
裏の理由?
聞かれたくない理由もあるんだろうか?
私は姿勢をこれまで以上に正して裏の理由というのをしっかり聞くことにした。
「フルートリオンの街には普段ノヴァがいる。医療ギルドの本作りにはノヴァの錬金術で作った数々の道具が必要なのは知っての通りだ。ノヴァの道具を盗まれないようにするためにもギルド本部はフルートリオンが望ましい。ノヴァ、フルートリオンの街を離れるつもりはないな?」
公爵様から質問されたけど、そんなの答えは決まっている。
おばあちゃんから引き継いだ雑貨店を放り出しはしない!
「はい。フルートリオンの街を離れるつもりはありません!」
「ならば決まりだ。技術開発自体はこの街で行うが、実際に本を作るのはフルートリオンの医療ギルド本部でのみとする。そうすることで、ノヴァの道具を盗まれる可能性を少しでも減らす。多少盗まれたところで、生産数はたかがしれているから気にも留めんがな」
さすがは公爵様、豪気だ。
私だったら少しでも盗まれないようにするもの。
納品はどうすればいいのかな?
やっぱり、フルートリオンの街に本部があるんだから、私が納めに行く方がいいのかな?
「細かいことは医療ギルドの本部が動き出してから決めようと思う。ただ、本部の建設作業そのものはすぐにでも開始する。この街から建築に必要な人員を派遣し、フルートリオンでも人員を雇いなるべく短期間で建築を終えるつもりだ。できれば今年の冬までに終わらせたいな」
「公爵様、何階建ての建物をお考えでしょうか?」
「ふむ? 四階建てくらいだが?」
「……さすがにそれを半年で建てるのはちょっと」
「そうなのか、モーリー」
最後に公爵様の世間知らずっぷりが垣間見えたけど、ギルド本部を置く街はフルートリオンで決定のようだ。
帰ったら忙しくなるのかな?
錬金術で建材とか作ってほしいって言われたらどうしよう?
考えてはみるけれど、建材ってなにが必要なんだろうか。
まあ、頼まれたらその時考えよう。
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