23. ちょっと危ない森の中

 わたしたち一行は森の中へと入って行った。

 そこに広がっていたのは別世界。

 あっちにもこっちにも薬草になりそうな草花たちが生えている!

 ああ、どうしよう、どの子を持って帰ろう!!


「ノヴァ? 顔が緩んでるが大丈夫か?」


「あ、アーテルさん。急いで収穫しましょう。ここにはたくさんの薬草たちがわたしを待っています」


「そ、そうなのか? よくわからんが、どうすればいい?」


「あ、アーテルさんって土魔法も使えないんでしたっけ」


「人間族はそんなに器用じゃないぞ。魔力を持っていても三つか四つの属性が使えれば大魔術師、俺ら冒険者じゃ魔術師役がひとつだけ属性を使える程度だ。俺なんて身体強化くらいしかできん」


「じゃあ、周囲の警戒をお願いします。わたしは根こそぎ集めちゃいますから!」


 アーテルさんには警戒をお願いし、わたしはそこら中にある草花をとにかく集めて集めて集めまくる。

 まだ栄養は足りていないけれど、それは持ち帰って育てながら元気にしてあげればいいし、種類があることが大切だからね!

 この森、サイコー!


「ふう、この場所はこれくらいでいいかな」


 周囲を歩き回ること二十分あまり。

 目につく草花はすべて集め終わった。

 わたしが見たことのない草花が多く、ひょっとしたら新しいお薬が作れるかも!


「終わったか、ノヴァ」


「あ、アーテルさん。ここは終わりました」


「ここは、か。まだ奥に進むのか?」


「当然です。入り口だけでもこれだけの素材が集まったんですから、奥に行けばもっとたくさんの素材があるはず!」


「はいはい。あまり奥には行かないからな」


「わかりました! では、進みましょう」


 意気揚々と森の奥に向かうわたしたち。

 森の奥に向かうにつれ草花の気配も強くなってきたし、素材の気配も増えてきた。

 わたしは十分進むたびに二十分くらい採取という歩き方を何度も繰り返し、本当にたくさんの草花を集めた。

 これは帰ってからが楽しみ!


「ノヴァ、まだ奥に行くのか?」


「うーん。どうしましょう? 素材は十分に集まった気がしますし、あとほしいのは、木の実がなる低木とか苗木になります。それくらいならまた今度でもいいかなって」


「木の実か。それも錬金術の素材か?」


「素材にもなりますしわたしとシシのご飯にもなります。便利ですよ?」


「……そうか。急ぎじゃないならまた今度にしてくれ、急ぎの用事はこっちに出てきたから」


「え?」


「っと!」


 アーテルさんが剣を一振りすると、小型の刃物が弾き飛ばされて地面に落ちた。

 これなんだろう?

 どこから飛んできたのかな?


「誰だ!? 姿を現せ!」


 アーテルさんが叫ぶと、人相の悪い男の人たちが三人ほど出てきた。

 一体なんなんだろう?

 何が始まるのかな?


「お前ら、何者だ?」


「聞かれて答えるバカがいるかよ。とりあえず、お前に用事はねぇ。用事があるのはそっちのガキだけだ」


「わたし?」


「……やっぱり裏で有名になっていたか」


「さあ、なんのことか」


 人相の悪い男の人とアーテルさんは何かを話しているけど、どうでもいいかな。

 それより、わたしの後ろの方にも人がいるけどなにをしているんだろう?


「……じゃあ、やっぱり退く気はねぇと」


「当然だろう。この恥さらしどもが」


「仕方がない。おい、やれ!」


 男の人が叫ぶと、後ろの森から縄の両端に石が巻き付けられた物が飛んできた。

 邪魔だし燃やしちゃお。


「シシ」


「にゃう!」


 シシが一鳴きすると飛んできた縄と石は灰になって消えていった。

 本当になんだったのかな?


「な、なんだ、いまのは!?」


「お前ら、ターゲットのことを調べなさすぎだ。相手は聖獣付きだぞ。裏に四人隠しておいた程度で連れ去れるわけないだろう」


「ちっ……」


「ま、俺はお前たちを捕まえなくちゃいけないんだけどな。さて、大人しく捕まるのと抵抗して腕を折られるのとどちらがいい?」


「クソが! 逃げるぞ!」


「逃げられると思っているのかよ!」


 アーテルさんは一瞬で後ろに回り込むと人相の悪い男三人組を気絶させてしまった。

 アーテルさん、強かったんだね。

 見直しちゃった。


「無事か、ノヴァ」


「わたしは大丈夫。シシは?」


「にゃうん」


「シシも平気だって」


「そうか。後ろにいたはずの連中だが……」


「そいつらなら、もう捕まえてあるぞ」


 後ろから声が聞こえたと思ったら茂みの中からヴェルクさんが出てきた。

 ヴェルクさん、いつの間に来ていたんだろう?


「ヴェルクさん、大丈夫でしたか?」


「あんな連中に後れを取るか。四人まとめて転がしておいた。だが、想像以上に人数が多いな。縛って連れ帰るにもロープが足りねぇ」


「ロープ?」


「ああ。こいつらを連れ帰るのに縄で縛って帰りたいんだよ。ノヴァの嬢ちゃん、何か持ってないか?」


 ロープ、ロープか……。

 あ、あれなら使えるかも。

 わたしはバッグの中からあるものを取り出した。

 キラキラと光り輝く糸だ。

 ちなみに、これってちょっと危険物。


「ノヴァの嬢ちゃん、これってひょっとして」


「魔蜘蛛の金属糸だって聞いたよ。気を付けて触らないと指を怪我するって聞いたもん」


「金属糸か。ノヴァの嬢ちゃん、これを借りてもいいか?」


「いいよ。余り物だし」


「助かる。アーテル、お前も伸びているバカどもを縛り上げろ」


「はい、ヴェルクさん」


 アーテルさんとヴェルクさんは倒した人たちを縄で縛り、首を金属糸でつないだ。

 うわぁ、気を付けないと首が糸で切れちゃうよ。

 倒れていた人たちもそれに気がついて大人しくアーテルさんとヴェルクさんの言うことを聞いてくれるみたい。

 よかったね。

 わたしも素材集めが出来たし、とっても満足な一日だった!

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