第二章 従魔契約と錬金術
7. 従魔契約について
「ん……むぅ……」
わたしは木漏れ日の中、木の葉のベッドの上で目を覚ます。
あ、そうか。
わたし、フラッシュリンクスさんの子供になったんだっけ……。
「にゃむ……」
「あ、末っ子さん」
「むにゃ……」
どうやらいつの間にか末っ子さんもわたしの部屋にやってきて一緒に眠っていたらしい。
フラッシュリンクスさんは気配を隠すことが上手って聞いたけど、本当に上手なんだね。
わたしが鈍感なだけかな?
それにしても木の葉のベッドもふかふかでいい感じ。
お日様もあんなに気持ちよく降り注いで……降り注いで?
あー!
もうお昼過ぎの時間になってる!
早く起きてみんなにあいさつをしないと!
「にゃふにゃふ……」
「末っ子フラッシュリンクスさん、起きて! みんなのところに行くよ!」
「にゃむ? にゃー」
まだ眠いけど仕方がない。
そんな声が聞こえてきた気がするけれど、急いで支度をしなくちゃ!
支度……支度?
あ、着替えもない!
ええと、このまま行くしかないよね!
ともかく急ごう!
末っ子フラッシュリンクスさんを両手で抱え走って広場に向かうと、広場にはお母さんと長男フラッシュリンクスさんがいた。
お姉さんフラッシュリンクスさんと次男フラッシュリンクスさんはいない。
どこに行ったんだろう?
『おはよう、ノヴァ。その様子だとよく眠れたようね』
お母さんからあいさつをされた。
わたしも急いであいさつをしなきゃ!
「おはようございます! お母さん、お兄さん!」
『おはよう。よく眠れたようでよかった。妹と弟は果物の追加を採取しに向かっている。いまは我々だけだがのんびり過ごそう』
長男フラッシュリンクスさんも優しく声をかけてくれた。
大丈夫、だったのかな?
「……あの、怒ってませんか?」
『何をだ?』
「えっと、寝坊をしたことです」
『なんだ、そんなことか。誰も気にしていないぞ。そもそも聖獣とは基本的に獣。野で過ごす故、昼に活動する者、夜に活動する者様々だ。多少寝坊したくらいでは気になどしない。さすがに夕方まで眠りこけていては生きているか心配なので様子を見に行く予定だったが』
「心配をかけてすみませんでした」
『気にするなと言っている。それよりも、お前の体のことを話そう』
わたしの体のこと?
一体なんだろう?
『もう、この子は端折り過ぎよ。ノヴァが眠っている間にあなたの体のことについて共有させてもらったの。昨日の夜は端的にしか説明していなかったからね』
お母さんが長男フラッシュリンクスさんに代わり優しく説明してくれる。
わたしの体のことって魔力を外に出せないことかな?
『説明が足りないか。よくお母様にも注意されるのだが……ノヴァ、すまないな』
長男フラッシュリンクスさんは説明が足りないことが多いらしい。
でも、それも個性だし気にしなくてもいい気がするな。
「いえ。それで、わたしの魔力を外に出せない理由は昨日の夜なんとなく話をしていましたよね。魔力を外部に流す器官がどうのって。それって治せるんですか?」
『治すことは可能だ。だが、治療を施すにはそれに特化した聖獣を探さなければならない』
「聖獣さんって一カ所で暮らしているわけではないんですね」
『まあな。同じ種族同士群れになっている種族もいれば別の種族と共同体をなす種族もいる。フラッシュリンクスは基本的に巣立ち前の家族単位でしか群れることはない』
「なるほど。勉強になります」
『私はもうすぐ……とは言っても人間の時間で言えば五十年は先か、ともかく巣立ちの時期が近い。妹や弟はもっと先だ』
フラッシュリンクスさんたちってどれくらいの時間を生きているんだろう?
きっと何千年とかを生きているんだろうな。
『話を戻す。魔力器官の治療に特化した聖獣もいるにはいる。だが、どこで暮らしているかはまったく見当がつかない。我々フラッシュリンクスの時間で考えれば探すのも苦労しないだろうが、人間の時間では十年以上かかってしまうこともあるだろう。すぐに見つかる可能性もあるが、それには期待しない方がいい』
「はい。わかりました」
わたしの体を治療できる聖獣さんもいるけれど、どこにいるかわからないから会えるかどうかわからない。
単純だけど大事な話だよね。
『そこで簡単にお前の体を治療する方法がある。お母様からも少しは聞いているようだが、〝従魔契約〟によって魔力を従魔との間で循環させる方法だ』
「あの、〝じゅうまけいやく〟について詳しく教えてください」
『わかった。〝従魔契約〟とは、ヒト族が魔獣や幻獣、聖獣、竜などと契約を交わして互いに結びつきを得ることを指す。できるようになることは、お互いの居場所がわかるようになったり、気持ちがわかるようになったりなどだ。ノヴァにとって最も大切なのは、従魔との間で魔力を行き来させることが可能になる、ということだろうな』
すごい、〝従魔契約〟っていろいろできるんだ。
次が一番大切なことみたいだからしっかり覚えておこう。
『従魔との間で魔力を行き来させることにより従魔をパワーアップさせることが可能だ。また、契約する従魔の種類によっては従魔が使える属性の魔法をノヴァが使えるようになる可能性もある。そのほかにもノヴァに眠っている才能があれば芽吹く可能性もあるな』
うわぁ!
本当にすごいことなんだ、〝従魔契約〟って!
それができればお母さんやお兄さんお姉さんたちにも負担をかけずに暮らせそう!
『ただ問題が一点。〝従魔契約〟を行うには互いに結びつきを得る必要がある。具体的にはお互いを認め合い、魔力を交換し合うことで契約が成立するな』
「それができればわたしにもできることが増えるんですね!」
『増えることは増えるのだが……困ったな、期待させるようなことを言ってしまったか』
あれ?
長男フラッシュリンクスさんがトーンダウンした。
どうしたんだろう?
『先ほども言ったが〝従魔契約〟をするには互いに認め合う必要がある。基本的に魔獣を従えるには魔獣と一対一で戦い、勝つことが条件だ』
「え?」
『幻獣や竜も同じこと。特に竜は強き者にしか力を貸さない傾向にある。幻獣は穏やかな種族なら力試しなしというのもいるだろうが、基本的に力試しは必要と考えた方がいいだろう』
「……」
『最後に残された可能性は聖獣になるのだが、こちらはこちらで気難しい。ヒト族に力を貸してくれる聖獣がどれだけいるかが問題になってしまう』
そんな……。
わたし、役に立てない?
『あとは、お前自身の体の問題だ。まだ体がしっかりとできていないお前では注ぎ込まれる魔力に耐えきれず死ぬ恐れもある。期待させるような事を言って申し訳ないが、この先十年くらいは契約を諦めた方がいい。お前のことは我々が守る』
やっぱり子供のわたしじゃ何もできないんだ。
お母さんたちに少しでも負担をかけさせずに済むかと思ったんだけどなぁ。
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