6. フラッシュリンクスたちとの食事会
新しい家族との初対面は終わった。
でも、聞かなくちゃいけないことはいっぱいある。
寝る前にそれを聞かなくちゃ。
「あの、皆さんに質問が……」
『ノヴァ、その前に食事を取りなさい。お腹が空いているのでしょう? 我慢は体に毒よ』
「あ、はい」
いろいろと聞きたかったんだけどな。
だけど、ご飯を食べなくちゃいけないのもそうだし、明日でもいいのかも。
『ねえ、人間族の食事とはどのようなものがいいの?』
お母さんと同じ赤い炎のフラッシュリンクスさんが尋ねてきた。
でもどう答えたらいいんだろう?
正直に答えればいいのかな。
「ええと、できればお野菜とか果物がいいです。虫とかはちょっと」
『虫は私たちも食べないから安心して。でも、お野菜って自然界には生えていないのよね。基本的に人が手を加えて改良した作物だから。どうしよう、兄さん』
赤い炎のフラッシュリンクスさんは最初にやってきたフラッシュリンクスさんに声をかけた。
あの青い炎のフラッシュリンクスさんがお兄さんなんだ。
と言うことは、青い炎のフラッシュリンクスさんはお兄さんなのかな?
『野菜は我慢してもらうしかないだろう。どちらにしても調理器具もない。果物は取り置きがあったな。弟よ、取ってきてくれ』
『わかったぜ。ノヴァはここで待ってな。美味い果物を持ってきてやるからよ』
あ、やっぱり青い炎のフラッシュリンクスさんはお兄さんなんだ。
最初に出てきたフラッシュリンクスさんが一番上のお兄さんで、後からやってきたフラッシュリンクスさんは妹さんと弟さんと。
あれ、妹フラッシュリンクスさんと弟フラッシュリンクスさんはどっちが上なんだろう?
『ん? どうした、ノヴァ。我々に聞きたいことがあるのか?』
悩んでいたら一番上のお兄さんに聞かれてしまった。
うん、わからないし聞いてみよう。
「えっと、誰がどの順番なのかわからなくて」
『誰がどの順番……ああ、兄妹順か。私が一番上の兄。そこにいる妹が二番目。いま果物を取りに行っている弟が三番目。お前の足元にいる妹が四番目だ』
「足元? ひゃあ!?」
「にゃう」
気がついたら赤ちゃんフラッシュリンクスさんが足元にいた。
ビックリした、何も気配がなかったもん。
『お前を驚かせることに成功して自慢げだぞ。フラッシュリンクスは気配を隠すことが得意だからな。その妹はまだまだ未熟で我々相手ではすぐに見つかってしまうので、初めて気付かれなかったことに喜んでいるようだ』
「そうなんですね。おめでとう、フラッシュリンクスさん」
「みゃう! みゃうみゃう!」
『頭もなでろと催促している。済まないがそうしてやってくれ』
「はい。いい子だね」
「にゃふ~」
末っ子フラッシュリンクスさんは頭をなでられて気持ちよさそう。
私の足元でほっぺをスリスリ擦り付けながら甘えている様子がまた可愛らしい。
でも、フラッシュリンクスの額の炎って熱くないんだね。
わたしの肌に触れているのにちっともやけどしないよ。
『果物、取ってきたぜ。って、末っ子は早速甘えてやがるのか。まだまだ甘えたい盛りだからな』
果物を取りに行ってくれていた二番目のお兄さんフラッシュリンクスさんが帰ってきたみたい。
その口には蔓がくわえられていて、後ろには木の板みたいなものに載った果物がたくさんある。
あれ、全部蓄えていた食料なのかな?
『誰にでも甘えたい時期はある。私にもあったはずだし、お前にもあった。ただそれだけのことだ』
『はいはい。それじゃあ、そのおちびさんよりさらに下の妹になったノヴァへ食事のプレゼントだ。好きなものを取っていって食べていいぞ。おちびはそろそろ甘えるのをやめておけ』
「にゃうん」
わたしの足元から末っ子フラッシュリンクスさんがいなくなり、自由になったのでお兄さんフラッシュリンクスさんのところに行って果物を食べることにする。
果物は色とりどり、たくさんの種類があって迷っちゃうな。
……とりあえず赤色のこれにしよう。
「それでは、今日の恵みを神に感謝します」
「にゃうん」
いつの間にかまたわたしの隣に来ていた末っ子フラッシュリンクスさんが、わたしの真似をして鳴いた。
末っ子フラッシュリンクスさんの前にも別の果物があるから、そっちを食べるみたい。
では、まず一口……。
『うん? どうした?』
「ごめんなさい。皮が固くてかみつけません」
『あー。その果物、俺たちがかみついても歯ごたえがあったからな』
『皮が固かっただけで中身は柔らかくみずみずしい果物だった。どれ、皮を剥いてやろう』
一番上のお兄さんフラッシュリンクスさんが額の炎を一瞬強く輝かせると、私の手元にあった果物が少しだけ燃え、皮がなくなった。
フラッシュリンクスさんってこんなこともできるんだ。
『これで食べられるだろう。遠慮せずに食べるといい』
「はい。では……うぐ!?」
『今度はどうした?』
「からだがしびれて……めのまえもくらくなって……」
『いけない! 浄化の炎よ!』
お母さんの声が聞こえるとわたしの体が炎に包まれ、体のしびれがなくなり目の前もはっきり見えるようになった。
一体なんだったんだろう?
『ノヴァ、その果物は食べるのをやめなさい』
「お母さん?」
『うっかりしていたわ。私たちにとっては毒でない食べ物でも人にとっては毒であることがあるということを』
「え? それじゃあ、この果物って……」
『人の体には毒だったということよ。その果物は捨ててしまいなさい』
「は、はい!」
もったいないけどわたしは手の中にあった果物を投げ捨てた。
わたしが投げた果物は宙を舞っている間に炎で焼かれてなくなったよ。
ああ、怖かった。
『本当にうっかりしていたわ。人と私たちの違いは食事にもあることを』
『参りましたね。お母様、新しい果物を集めてきますか?』
『同じことよ。新しく集めてきた果物が毒ではないという保証ができないわ』
『じゃあどうしましょう、お母様。ノヴァが食べられるかどうかわかりません』
お母さんやお兄さんお姉さんが心配して相談してくれている。
でも、どうにもできないよね。
うん、わたしが我慢して食べよう。
「あの、わたし、この果物を食べてみます」
『いいの? 多分、毒が含まれているものも多いわよ?』
「ちょっとなら我慢できます。だから……」
『家族なんだから我慢とかはなし。そうね、食べる前に浄化の炎で炙ってしまいましょうか。そうすれば毒物も消えるでしょう』
『それがいいですね、お母様。寄生虫の類いも焼き払えます』
『あ……』
『お母様、普通の生物には寄生虫も毒ですよ?』
『……聖獣って長く暮らしているといろいろと常識がなくなるものね』
『聖獣にはほとんどの毒も寄生虫も意味をなしませんからね。さて、ノヴァを待たせるのも悪いです。早く炙ってしまいましょう』
こうして、お母さんやお兄さんお姉さんたちが浄化の炎で果物を焼いてくれた。
焼いた後の果物は皮も剥きやすくなっていたし美味しく食べることができて本当によかったよ。
でも、ときどき舌が痺れる果物もあってそういうものはすぐに吐き出さしなさいってお母さんに言われた。
浄化の炎で焼いても根本的に毒な果物はどうにもできないんだって。
そして、果物も食べ終わり満腹になると眠たくなってきちゃった。
『あら? ノヴァ、眠くなってきたかしら?』
「ごめんなさい。お腹がいっぱいになったら眠くなっちゃいました……」
『だったら今日はもう休むといいわ。あなたの寝床は……あの炎の先よ』
お母さんが鼻で示した先に新しい炎の通路ができあがっていく。
わたしはあそこで寝ればいいみたい。
いろいろと説明しなくちゃいけないけれど、今日はもう休ませてもらおう。
「お母さん、お兄さん、お姉さん。おやすみなさい」
『ええ、おやすみ』
『ゆっくり休むといい』
『ここなら外敵に襲われる心配もないわ』
『食べられそうな果物も増やしておくからな。今日はゆっくりと眠っておけ』
「にゃうにゃ!」
「はい。それでは」
わたしはふらふらとした足取りで通路の奥へと向かっていった。
行き止まりには部屋があって木の葉を積み重ねたベッドが用意してある。
今日はここで眠ればいいのかな?
ダメだ、頭が働かない。
もう寝よう。
明日はお兄さんお姉さんたちといろいろ話し合わなくっちゃ。
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