5. フラッシュリンクスの家族たち

 お母さんはわたしを乗せてびゅんびゅんと空を駆け抜けていく。

 どれくらい速いのかはわからないけど、きっとすごく速いんだろうな。

 そんなお母さんは多分決まった高さを走り続けていたはずなのに、少しずつ下に行き始めた。

 どうしたのかな?


「お母さん、少し飛ぶ高さ、下がってきてる?」


『あら、気がついたの? もう少しで私の巣だから高度を下げていっているの。山に激突したりはしないから安心して』


「あ、うん」


 言われて下を見てみると、多分山みたいなのが足元に広がっていた。

 いまの季節は春に向かって進んでいる頃だから、山のてっぺん付近には雪が残っている。

 それよりもはるかに高いところを飛べるお母さんってやっぱりすごい。


「お母さん。お母さんの巣ってどんな場所にあるの?」


『私の巣は山々に囲まれた森の一角ね。そこにある一部に結界を張って誰も近づけなくして巣にしているのよ』


「けっかい?」


『まあ、いまは〝誰も近づけない場所〟とだけ覚えておいて。もう少しでその森も見えてくるわよ』


「うん!」


 お母さんの言うとおり少し経つと山の中にぽつんと森がある場所が見えてきた。

 お母さんもそこを目指して走り始めたし、あそこに巣があるみたい。

 聖獣さんの巣ってどういう風になっているのかな?

 ちょっとわくわくする。

 そして、お母さんは森の一角で止まるとわたしに優しく話してくれた。


『この下が私たちの巣よ。入るときに少しだけ気持ち悪くなるかも知れないけれど我慢してね』


「うん、わかった」


『いい子ね。じゃあ、入るわよ』


 お母さんがゆっくりと森の中へ下りていく。

 すると、急に目の前がぐにゃりとゆがみ始めた。

 頭がクラクラする。

 気持ち悪くなるってこういうことなんだ。

 でも、目の前の歪みもすぐに消えてなくなり、周囲には白い炎で照らし出されたきれいな空間が広がった。


「うわぁ……」


『ようこそ、私の新しい娘ノヴァ。今日からここがあなたの新しい家よ』


 巣って言うから鳥の巣みたいなものを想像していたけど、実際は全然違ったよ。

 白い炎で照らし出された空間は広場みたいになっていて昼間ほどじゃないけど明るく照らし出されている。

 そこから、少しだけ暗い炎で道みたいなものが照らし出されている。

 あれは何なのかな?

 お母さんが地上に降りたので道みたいなところをじっと見ていると、そこからお母さんより少し小さいフラッシュリンクスさんが出てきた!

 あのフラッシュリンクスさんもお母さんの家族なのかな?


『お母様。お戻りになりましたか』


 お母様ってことはやっぱりお母さんの子供なんだ!

 お母さんとの違いは体の大きさと額と尻尾の炎が赤色じゃなくて青色だってことかな?

 色の違いって何なんだろう?

 知りたいことがどんどん増えていくよ!


『ええ、いま戻ったわ』


『それで、魔力の発信源は?』


『この子供よ。名前はノヴァ。今日から私の新しい娘になったわ』


『お母様の娘?』


『いろいろと訳ありよ。他のみんなは?』


『それぞれの寝床で休んでいます。呼びますか?』


『新しい家族をお披露目しなくちゃいけないもの。呼んでちょうだい』


『では』


 お母さんの子供フラッシュリンクスさんが大きな声で一吠えした。

 すると、他の道からも小さなフラッシュリンクスさんたちがやってくる。

 額と尻尾の炎がお母さんと同じ赤色のフラッシュリンクスさんが一匹と、お母さんの子供フラッシュリンクスさんと同じ青色のフラッシュリンクスさんが一匹、それから赤い炎なんだけどまだ子猫のフラッシュリンクスさんが一匹だ。

 子猫のフラッシュリンクスさんはなんだか眠たそう。

 寝ているところを起こしちゃったのかな?

 なんだか悪いことをしちゃったみたい。


『全員揃ったわね』


 お母さんの号令でフラッシュリンクスさんたちがきれいに並んだ。

 子猫さんだけはまだうつらうつらしているけれど。


『聞いてちょうだい。今回の不自然な魔力の発信源はこの女の子だったわ』


『その子ですか、お母様。でも、その子をなぜ連れ帰ったのですか?』


 お母さんと同じ赤色の炎を宿したフラッシュリンクスさんがお母さんに質問した。

 いきなり連れて帰ってきたらビックリするのも当然だよね。


『この子は人里で魔力なしと判断され森の中に捨てられたみたいなの。だから、行くあてのなかった子供を引き取ってきたのよ』


『は? 魔力の発信源はその子だったんですよね、母さん。なんで魔力なしと判断されているんですか?』


 次に質問したのは最初に出てきた子供フラッシュリンクスさんと同じ青色の炎のフラッシュリンクスさん。

 このフラッシュリンクスさんが一番からだが大きくて迫力がある。


『調べたのだけど、魔力を外部に流す器官が損傷しているみたい。先天的なもののようだから治療系の聖獣でもない限り治せそうもないわ』


『それで連れ帰ってきたんですか?』


 次に発言したのは最初にやってきたフラッシュリンクスさん。

 後からやってきた青色のフラッシュリンクスさんより細身だけど、体はがっしりしていて力強い。


『捨て子を放っておけないもの。放置しておいて今度こそ魔力暴走を起こされても困るでしょう?』


『それは……』


『そういうわけなので、この子は私の新しい子供よ。人らしく名前も付けたわ。名前はノヴァ。聖獣と人だからいろいろと生活習慣が違うところもあるでしょうけれどしっかりと面倒を見てあげてね。さあ、ノヴァもごあいさつ』


 今度はわたしがあいさつする番なんだ。

 緊張するけど頑張らなきゃ!


「ノヴァです! 今日からよろしくお願いします!」


 わたしは大声であいさつをして頭を下げた。

 これでよかったのかな?


『そうかたっ苦しくなるな。今日から我々は兄妹なのだからな』


『そうそう。仲良くやりましょう?』


『人ってことは森に出るのも危険だろう? ひとりで勝手に出歩くんじゃないぜ』


「みゃう!」


『末っ子もよろしくって。あの子はまだ幼すぎて喋れないの。ノヴァも仲良くしてあげてね』


「はい! よろしくね!」


「みゃうみゃう!」


 こうしてお母さんの家族との初対面は無事終了した。

 お母さんの子供は四匹もいたんだね。

 でも、お兄ちゃんなのかお姉ちゃんなのかよくわからないや。

 そこも聞いてみなくっちゃ。

 新しい生活、楽しみになってきた!

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