4. 少女の新しい名前はノヴァ
『……やっぱり魔力はかなり強いわね。ただ、強い魔力を持っていても外に出す方法がないというだけで』
わたしの手の上に乗せていた前脚を下ろしてフラッシュリンクスさんは教えてくれた。
わたしって本当は魔力がたくさんあったんだ。
「そうなの?」
『そう。困ったわ、下手に放置して魔力暴走を起こされても困るし、そもそもこれくらいの人の子が何も持たずに自活できるとは思えない。どうしましょう』
フラッシュリンクスさんはとっても困っているみたい。
わたしも困ってしまう。
お父さんとお母さんのところに帰っても変わらないよね、きっと。
フラッシュリンクスさんははっきり言わなかったけれど、わたし、お父さんとお母さんに捨てられたんだし……。
『そうだわ。あなた、行くあてもないのでしょう? それなら私の子供になりなさい』
「フラッシュリンクスさんの子供に?」
『ええ、そう。魔力を外に出せないのは、魔力を外部に放出するための機能が機能不全を起こしているためなの。それを治療できる聖獣がいるかも知れないし、もっと手っ取り早い治療法も知っているわよ』
「えっと、手っ取り早い治療法ってなんですか?」
『〝従魔契約〟よ。これを行えば、最低でも魔力で従魔を強化できるし、うまくいけば従魔の使える属性魔法を扱えるようになるかも知れないもの』
〝じゅうまけいやく〟ってなんだろう?
でも、解決方法があるならそれに挑戦してみるべきだよね。
うん、フラッシュリンクスさんについていこう。
ここにいても多分お腹が空いて死んじゃうか、獣に襲われて死んじゃうかのどっちかだし。
生き残れるなら聖獣さんの力を借りるべきだね。
「〝じゅうまけいやく〟がなにかわかりませんが、わたし、フラッシュリンクスさんと一緒に行きます。フラッシュリンクスさんの子供になります!」
『あら、想像以上に早い決断ね。私と一緒に暮らすということは、人との関係を切るということよ。それでも構わないの?』
「大丈夫です。お友達と会えなくなるのは残念だけど、もうわたしは帰れないから」
『……そう、聡い子ね。あなた、お名前は?』
名前……そう言えば名乗ってなかった。
すっごい失礼なことをしちゃってたなぁ。
あ、でも、フラッシュリンクスさんの子供になるならちょうどいいかも。
「名前はフラッシュリンクスさんが付けてください!」
『私が? いままでの名前はどうするの?』
「それも捨てていきます。どうかよろしくお願いします」
『本当に賢い子。ちょっと不安になっちゃう。それじゃあ……ノヴァはどうかしら?』
ノヴァ……それがわたしの新しい名前!
「わかりました。わたしは〝ノヴァ〟です!」
『ええ、よろしくノヴァ。わたしに個体名はないからお母さんと呼んでちょうだい』
あ、そうか。
今日からこのフラッシュリンクスさんはお母さんになるんだ。
ちょっと恥ずかしけど慣れていかないとね。
「それじゃあ……お母さん」
『はい。よくできました、ノヴァ。とりあえず、服も着ていないままじゃ寒いでしょう? 今服を着せてあげるわ』
お母さんがそう言うと、わたしの体が白い炎に包まれて、消えた後には白いワンピースが残っていた。
靴もしっかりできていて、歩くのも楽になったかも!
「ありがとう! お母さん!」
『お母さんなんだから当然よ。さて、お腹が空いているでしょうけど、私の巣まで我慢してちょうだいね。巣に戻れば人間でも食べられる果物が置いてあるから』
「うん! でも、どうやって、巣に帰るの?」
『私に乗りなさい。空を飛んで帰るわ』
「お母さんに乗るの?」
『そうよ。ほら、早く』
お母さんが急かすので、わたしはお母さんの背にまたがった。
するとお母さんは立ち上がり、一吠えすると空へと浮かび上がる。
そして火の粉を散らしながら森を駆け抜け、木々の上に出ると満天の星空が出迎えてくれた。
「うわぁ……」
『見蕩れているところ悪いけど、落ちないように気を付けてね。一応、暴れでもしない限り落ちないようにはしているけれど』
「あ、うん。気を付けます、お母さん」
『もう少し気軽に話してもらいたいのだけれど……時間が解決してくれるでしょう』
お母さんがぽつりと何かを言ったけれど、わたしの耳には届かなかった。
わたしは未練を残さないためにもそのまま空を見上げて森を飛び去っていった。
わたしは今日からノヴァ。
フラッシュリンクスのお母さんの子供なんだから。
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