17. 〝ぼうけんしゃぎるど〟で治療

 入り口が乱暴に開かれて運び込まれてきたのは、血まみれの男の人と女の人。

 たくさん血が出てるから結構危険かも。

 大丈夫なのかな?


「ヴェルクさん!? その人たちは……アーテルさんとエニィさん!?」


 さっきの受付のお姉さんが最初に男の人を運んできたおじさんに声をかけた。

 このおじさん、背はあまり高くないけど、腕とかがかなり太い。

 あと、ひげがもじゃもじゃ。


「ああ、ミカの嬢ちゃんか! 救護室を貸してくれ! アーテルとミリィがヴェノムグリズリーにやられた!」


「ヴェノムグリズリー!? そんな大物、この街の近くにいたんですか!?」


「はぐれがいたらしい! 幸い、俺とこいつらで倒したが、ふたりとも毒を受けちまってる! 毒消し薬はどの程度ある!?」


「ちょっと待ってください! 救護室に行かないと……」


「わかった! 救護室に向かうぞ!」


 受付のお姉さんと〝ぼうけんしゃぎるど〟に入ってきたおじさん、血まみれになっていた男の人と女の人は奥の方へと連れて行かれた。

 本当に大丈夫かなぁ?


「ヴェノムグリズリーか。恐ろしい魔物がいたもんだ」


「そうなの?」


「ああ。爪や牙から猛毒の体液を流し込んでくる凶悪な魔物だよ。倒してくれたらしいが、しばらくの間、街の往来を止めるべきか……」


「ふーん」


 ……やっぱり気になる!

 あの人たちの治療に行こう!


「おじさん、ちょっと行ってくるね!」


「行ってくるってどこにだ?」


「あの人たちの治療!」


「治療って、おい! 子供が手を出すような問題じゃ!」


 あたしはシシを連れてあの人たちが消えていった通路の方へ走っていく。

 通路の中に入って少し行くと半開きの扉があり、そこから中の様子をうかがうとさっきの男の人と女の人が治療を受けていた。


「アーテルさん、エニィさん、しっかり!」


「あ、あぁ……」


「う、うん……」


「おい! 毒消し薬をもっとよこせ! 毒が消えてない!」


「すみません! もう毒消し薬がありません!」


「なにぃ!?」


「このギルドに常備されている毒消し薬はもうすべて使い切ってしまいました!」


 あ、この〝ぼうけんしゃぎるど〟にある毒消し薬はもうなくなったみたい。

 わたしの出番かな?


「ちっ! そうなると、ギルドにいる冒険者から買い集めるしか……」


「お薬、いるの?」


 わたしは扉を開けて部屋の中へと入ってみた。

 でも、部屋の中にいた人たちはわたしの姿を見て呆気にとられている。

 治療しなくていいのかな?


「あの、どうやってここに?」


「普通にこれたよ?」


「ちっ! ここは子供の遊び場じゃないぞ!」


「でも、お薬はいるんだよね?」


「え、あ、はい。薬は必要ですね。まさか、持っているんですか!?」


「毒消し薬もあるし、傷薬もあるよ」


「おいおい、本当か嬢ちゃん!」


「うん」


「嬢ちゃん、すまないが薬を譲ってくれ! 謝礼は出す!」


〝しゃれい〟ってなんだろう?

 ともかくお薬を出さないとね。


「ええと、この青いお薬が毒消し薬です!」


「え? これが毒消し薬?」


「なに? 薬草じゃないのか?」


「そうですよ?」


「ええと、これ、どう使うんですか?」


「えっと、傷口にかければいいってお母さんが言ってました。そうすればすぐに毒が消えて少しだけ傷口が塞がるって」


「おい、嬢ちゃん、ふざけて……」


「いえ、ヴェルクさん。すぐにこの毒消し薬を使いましょう」


「あ? ミカ?」


「話は後です。いまは治療を」


「お、おう」


 受付のお姉さんはわたしから毒消し薬を受け取ると、早速男の人と女の人の傷口に薬を流し込んだ。


「ぐ、ぐぁぁあ!」


「きゃぁぁ!?」


「お、おい!?」


 あ、あのお薬ってしみるんだっけ。

 伝え忘れていた。


「だ、大丈夫ですか!? アーテルさん、エニィさん!?」


「あ、ああ、大丈夫だ。気分も落ち着いた」


「本当に落ち着いたわ。ミカ、それって気付け薬? 毒で気持ち悪かったのも消えているけど……」


「毒消し薬、だそうです」


「毒消し薬? その小瓶に入っていたものが?」


「薬草を煎じたものが入っていたの? というか、その透明な瓶はなに?」


「い、いえ。中に入っていたのは青色の液体です。それを傷口に流し込んだらおふたりが悲鳴を上げて、そのあといまの状態に」


「は? 瓶に入った毒消し薬?」


「薬草を煎じたものでもなく青い液体?」


「は、はい。ちなみに、持っていたのは、そっちの女の子です」


 あ、わたしに注目が集まった。

 傷薬も渡さなくちゃ。


「あの、これ、傷薬です!」


「え、ああ。この緑色の薬草をすりつぶしたみたいなのか?」


「こっちは普通の薬なのね?」


「普通の薬? さっきのも普通のお薬ですよ?」


 へんなの。

 お薬はお薬なのに。


「アーテル、エニィ。ともかくその傷薬を使わせてもらえ。決して浅くはない怪我だったんだ。少しでも怪我が良好になるならいいことだろう」


「そうですね、ヴェルクさん。……って、傷薬を塗った後の傷口が消えている!?」


「なんなのこれ!? 傷痕も残っていない!」


 よかった。

 お母さんから薬の効果は聞いていたけど、自分で効果を見るのは初めてだったもん。

 ちょっとだけ緊張した。


「ねえ、お嬢ちゃん。これってお母さんがくれたお薬なの?」


 受付にいたお姉さんが聞いてきたけどはっきり答えなきゃ。

 これはわたしの薬だって。


「違いますよ。わたしが作ったお薬です!」


「ええっと、このお薬ってどうやって作ったのかな? 聖獣様の力?」


「それも違います。錬金術です!」


「錬金術!?」


「はい。わたしは錬金術士です!」

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