16. フルートリオンに入街
わたしとシシはおじさんたちふたりに連れられてフルートリオンの街までやってきた。
そして、その入り口にある建物でいろいろ聞かれている。
いろいろというか、お母さんの巣の場所なんだけど。
「うーん。それじゃあ、本当に巣がどこにあるのかわからないのか?」
「わかりません。ここに来る途中も山や川をたくさん越えてきました」
「困ったなぁ。どこの国に所属しているかわからない民を街に入れるのも……」
「国ってなんですか?」
「ああ、お嬢ちゃんにはそこからなのか。国って言うのは……なんだ、街や村が集まってひとつの国になっている、と思えばいい。いろいろと違うが、難しいことはわからないだろう?」
む、なんだかバカにされている。
でも、街や村が集まってひとつの国になっているって言うことはなんとなくわかった。
巣がたくさん集まって大きな巣になっている感じだね!
「国については想像できたか?」
「はい!」
「いい笑顔だなぁ。それで、お母さんに拾われる前の国もわからないんだよな?」
「わかりません。昔の人たちもどこに住んでいるのか知りませんし知りたくもないです」
「弱ったなぁ。嬢ちゃんみたいな子供がスパイだなんて可能性は低いだろうし、そもそも、どことも国境を面していないこのフルートリオンにスパイを送り込む価値なんてないんだが、門番の仕事としてどこの誰かもわからない子供を街に入れられないんだよなぁ」
うーん、どうすればいいんだろう?
街でどうすればいいかも決めてないけど、街に入ることもできないよ。
「なあ、とりあえず街には入れてやらないか? さすがに子供を放っておくわけにもいかないだろう」
「うーん、それもまずくないか? 子供とはいえ魔獣連れだぞ?」
「うーむ……」
おじさんたちもいろいろ難しいみたい。
人の街って大変なんだね。
「……とりあえず、冒険者ギルドで相談してもらうか?」
「こんな子供を冒険者ギルドに連れて行くのか?」
「獣魔士ということはある程度戦闘もできるだろう? なら……」
「だが、冒険者ギルドにだって規約はあるはずだ。こんな子供が冒険者になれるのか?」
「それもそうだが……ここでいつまでも止めておくわけにもいかないだろうよ」
「まあ、仕方がないか。嬢ちゃん、一度嬢ちゃんを冒険者ギルドってところに案内してあげよう。そのあと、そこでもう少し相談だ」
「うん。わかった」
〝ぼうけんしゃぎるど〟ってなんだろう?
ともかく、そこに行かないといけないらしいし、ついていくしかないよね。
本当は街に入るためにお金も必要らしいけど、それもいらないって言われた。
わたしはお金も持ってるって言ったのに信じてくれないんだもん。
ともかく、フルートリオンの中に入れることになったわたしはシシと一緒に門をくぐり抜けた。
「うわぁ。これが人の街……」
「にゃう……」
「ん? 大きな街は初めてか?」
「人の街は初めてです。覚えている限り、お母さんの巣しかいたことがないし」
「にゃう!」
「そ、そうか」
人の街っていろいろな匂いがする。
ちょっと変な臭いも混じっているけど、人って気にしないのかな?
街の中にはたくさんの建物があって変わっているね。
人ってこんなに建物が必要なんだ。
あ、あっちの建物では何かを焼いてる!
多分お肉かな?
でも、お肉ならいらないや。
「嬢ちゃん、キョロキョロしてそんなに珍しいか?」
「うん。たくさん建物があって面白いです。どんなところがあるんですか?」
「うーむ、どんなところか。普通に人が住んでいる家もあれば、鍛冶屋や服屋、宝飾品店、八百屋など様々だな。レストランや宿屋もあるぞ」
「へえ。でも、それぞれのお店がどんなことをしているのかわかりません!」
「なう!」
「……ま、そうだよな」
おじさんは、お店についてもいろいろと教えながら歩いてくれた。
特に興味を持ったのは八百屋かな?
野菜や果物を置いているんだって。
果物はたくさんマジックバッグに詰めてあるけど、変わったものがあったら買ってみるのもいいかも。
そのままおじさんの後をついて歩いていくと、ひとつの大きな建物の前で立ち止まった。
あたしも立ち止まってその建物を見るけど、三階建ての建物だ。
「ここだ。ここが冒険者ギルドだ」
「〝ぼうけんしゃぎるど〟?」
「冒険者ギルドって言うのは……まあ、何でも屋の集まりだ。魔物退治なんかの依頼がよく出されている」
「へぇ……」
魔物かぁ。
見たことはないけれど、お母さんからは危ないから近づくなって言われているんだよね。
興味はあるけどやめておこう。
「ともかく、中に入ろう。嬢ちゃんの身の振り方も相談しなくちゃいけないからな」
「はあ」
わたしの身の振り方?
どういう意味だろう?
ともかく、おじさんの後に続いて〝ぼうけんしゃぎるど〟の中に入って行く。
すると、中には剣や盾などの武器を持ったたくさんの人たちがいてこっちを見てきた。
よくわからないけど、サンニィはこういうとき目をそらしたら負けだって言っていたよね!
よし、頑張るぞ!
「……嬢ちゃん、何をやっているんだ?」
「見られているようなので目をそらさないようにしています!」
「いや、そんなことしなくてもいいからな。とりあえず受付っと。ああ、すまん、ちょっといいか?」
おじさんが声をかけたのは猫の耳が頭のてっぺんに着いているお姉さん。
ちょっとさわってみたい。
「はい。なんですか?」
「この子の事を頼みたいんだが」
「この子? ……あの、冒険者ギルドは迷子の預かり所じゃありませんよ、衛兵さん」
「ああ、迷子じゃないようなんだ。どうにも、フラッシュリンクス? って聖獣に連れられてやってきた子供のようなんだが、俺たち門衛じゃらちがあかなくてなぁ……」
「はあ……? とりあえず、フラッシュリンクス? ですか。それが聖獣なのかを調べてみます。少しお待ちを」
「ああ、頼んだよ」
あ、〝ぼうけんしゃぎるど〟ってお母さんたちのこともわかるんだ。
すごいなぁ。
おじさんに声をかけられていたお姉さんはしばらくすると戻ってきて、おじさんに再び話しかけた。
「確認が取れました。どんな姿形でしたか?」
「いや、俺たちが確認する前にいなくなっちまったんだよ」
「は?」
「だから、俺たちが確認する前にいなくなったんだって。街の近くに火の玉が飛んできてまた飛び去っていったの、冒険者ギルドでは話を聞いてないのか?」
「いえ、聞いていますが……それが何か?」
「その火の玉が落ちた場所にいたのがこの子供なんだ。それで、フラッシュリンクスを〝お母さん〟って呼んできかないんだよ」
「フラッシュリンクスがお母さん。ねえ、お嬢さん。お母さんの特徴を言える?」
お母さんの特徴?
どこを説明すればいいかな?
「えっと、額と尻尾が赤く燃えていて炎に身を包んで空を飛べる……とか?」
「うん、フラッシュリンクスの特徴として知られていることと一致します。というか、その子の抱いている子猫、フラッシュリンクスの特徴そのままじゃないですか。頭の羽と背中の翼は知られていない特徴ですが」
「じゃあ、この子供が言っていることは本当なのか?」
「嘘だとは思えません。こんな子供がフラッシュリンクスの外見を知っているとは考えられませんし、それ以上に抱いている子猫はフラッシュリンクスそのものです。信憑性は高いですね」
「なるほど。ということは、このままこの街に入れても構わないのか?」
「……それを調べるために冒険者ギルドに?」
「いや、俺みたいな田舎の門衛が聖獣様の外見なんて知るわけもないだろう?」
「まあ、私だってギルドの聖獣辞典を調べてようやくですけど。ともかく、この子供は本当のことを言っていると考えられます」
「そうか。疑って悪かったな、ノヴァの嬢ちゃん」
ふう、ようやく信じてくれた。
長かったなぁ。
「それで、衛兵さん。この子供はどうするんですか?」
「どうしたもんかなぁ。聖獣様の子供である以上、街に入れないって選択肢はないんだが」
うん?
何か困ることがあるのかな?
「この街でも悪人はいる。まだ六歳の子供、珍しい赤い翼の天翼族、聖獣様の子供付き。さらわれるには十分過ぎる条件だよな」
「……その通りですね」
「さて、そうなると……」
うーん、わたしはまだこの街で自由になれないんだね。
どうしようか?
「おい! 道を空けてくれ!」
〝ぼうけんしゃぎるど〟入り口のドアが開いたと思ったら、いきなり叫び声が聞こえたよ。
そして、担ぎ込まれてきたのは血まみれの男の人と女の人。
大丈夫かなぁ?
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