15. 辺境の街フルートリオンへ

 お母さんに乗って山を越え、川を越え、遠くの地までやってきた。

 空から見たときは小さな街が見えたけれど、地上に降りたいまは遠目にそこそこの大きさの壁が見えるだけになってる。

 わたしが昔暮らしていた村には壁なんてなかった気がするから、それだけでもすごい。


『あそこが私の見つけておいたノヴァたちの暮らす街の候補、フルートリオンよ』


 わたしとシシはお母さんから降りて壁のある街を見た。

 あそこが私たちの暮らす街候補……。


「フルートリオン」


「にゃう……」


『あの街は辺境の街だから人がそんなに多くないわ。天翼族もいないみたい。主にいるのは人間族と獣人族。それからエルフ族とドワーフ族ね』


「そんなにたくさんいるんだ」


『そうでもないわよ? もっと都会に行けばさらに多くの種族で賑わっているところだってあるんだから』


「へぇ……」


 そんなところもあるんだね。

 でも、わたしにとってはどうでもいい話かなぁ。

 わたし、あまり興味がないもん。


『さて、そろそろ行きなさい。私ももう行くわ』


「うん。元気でね、お母さん」


「にゃうにゃ!」


『ええ。ふたりとも、仲良く元気で過ごしてね』


 お母さんは空を飛ぶために炎をまとい宙に浮かぶと勢いよく飛び出していった。

 飛んできたときと同じ方角に向かっていったから、巣に帰るのかな。

 そう言えば、イチニィの巣立ちっていつくらいなんだろう?

 聞いておけばよかったかな。


「おーい、そこの子供! 無事か!?」


 お母さんの飛んでいった方角を眺めていたら背中から声をかけられた。

 そっちの方をみるとおじさんがふたり走ってきている。

 あんなに慌ててどうしたんだろう。


「はあ、はあ……無事か。赤い翼の天翼族なんて初めて見たぞ。ん? お前さん、親は? それにその額と尻尾が燃えている獣は一体?」


「親ですか? お母さんならさっき飛んで巣に帰りました。この子はシシ、わたしのお姉ちゃんで相棒です」


「にゃう!」


「親が飛んで帰った? それにその獣がお姉ちゃんで相棒? 何を言っているんだ、お嬢ちゃん?」


 あれ?

 わたし変なことを言っているかな?

 特におかしな事は何も言っていないはずなんだけど……。


「おい、とりあえず状況を整理した方がいいんじゃないか? この子供も混乱しているのかも知れない」


「あ、ああ、そうだな。嬢ちゃん、なんて名前だ? 歳は? どこ出身だ?」


「わたしの名前はノヴァです。歳は六歳。出身地はお母さんの巣です」


「お母さんの巣? まあ、いい。それで、その獣は? 頭が燃えている以上、普通の獣じゃないし魔獣か?」


「魔獣じゃないですよ。聖獣フラッシュリンクスのシシです。まだ子供ですけど」


「にゃふ!」


「聖獣フラッシュリンクス? 聖獣様がなんでこんなところに? それ以前に本物か?」


 質問の多いおじさんたちだなぁ。

 どうすればいいんだろう。


「シシがここにいるのはわたしの巣立ちについてきてくれたからです。本物かどうかは……どうやって示せばいいのかな?」


「にゃう?」


 シシと見つめ合って首をかしげてしまう。

 そもそもわたしだってお母さんと会うまでは聖獣さんの存在自体知らなかったし、どうすれば信じてもらえるかなんてわからないよ。


「……とりあえず意思の疎通はできているようだな。その魔獣、暴れないか?」


「魔獣じゃないですって。シシはわたしに危害が加わらない限り暴れません」


「わかった。少し貸してくれ」


「はい、どうぞ。乱暴に扱わないでくださいね」


 わたしはおじさんのひとりにシシを手渡す。

 シシも大人しくおじさんの手に乗り、おじさんたちがいろいろ触るままにされていた。


「頭と尻尾は燃えているのに触っても熱くないな」


「それに本当に大人しい。本物の聖獣様か?」


「だから本物の聖獣ですって。そろそろシシを返してもらってもいいですか?」


「ああ。手間をかけさせて済まなかったな、嬢ちゃん。いや、ノヴァちゃんにシシ」


「いいって。シシ、戻ってきて」


「なおん」


 シシがおじさんの手の上から飛んでわたしの肩の上に止まった。

 おじさんたちはシシが空を飛べることにも驚いているみたい。


「翼があったが……本当に飛べるんだな」


「本当に本物の聖獣様か?」


「だから、本物ですよ。疑い深いですね」


 このおじさんたち本当にしつこい。

 なんでそんなに疑うんだろう。


「あー、すまないな、ノヴァちゃん。俺たち、本物の聖獣様なんて見たことも聞いたこともないからよ」


「そうそう。有名どころは知っているけど、フラッシュリンクスなんて種族もいま初めて聞いたくらいだ。まあ、ノヴァちゃんの手には従魔紋があるし、普通の魔獣なのかも知れないけどな」


 本当に疑い深いなぁ。

 でも、わたしだってお母さんに会わなかったら知らなかったわけだから似たようなものかな?


「それで。ノヴァの嬢ちゃんの親はどこに行ったんだ? 姿が見えないが」


「さっきも言いましたが飛んで帰りましたよ。わたしとシシを送り出しに来ただけですので」


「うん? じゃあ、ノヴァの嬢ちゃんはひとりか?」


「はい。ひとりです。人里に下りるため、フルートリオン? と言う街にやってきました」


「人里に下りるため? お嬢ちゃん、いままで一体どこで暮らしていたんだい?」


「お母さんの巣です」


「そのお母さんっていうのは?」


「フラッシュリンクスのお母さんです。わたしの育ての親でシシの親ですよ」


 そこまで言うとおじさんたちはさらに驚いた顔を見せた。

 そんなに変な顔をするくらい驚くことを言っているのかな?

 変なの。

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