26. 変な人がやってきた
アーテルさんとこの国の仕組みについて話してから一週間が過ぎた。
その間もアーテルさんは毎日やってきていろいろな話をしてくれて行っている。
それもありがたいけど、やっぱりわたしは早くお薬を売りたい。
スピカさんからはお店からも出歩かないように言われているから外にも行けないけど、病気になる人だって出ているはずだからね。
そういう人たちのために作った薬がたくさんあるんだ。
持っている薬で効かない病気だった場合、新しく作ればいいんだし!
ともかく、雑貨屋の仕事をしながら薬の販売許可をくれるって言う人を待っている。
早く来ないかな?
「おい! ここに錬金術師がいるというのは本当か!?」
雑貨屋で店番をしていたら乱暴にドアが開かれて痩せ細った男の人が怒鳴り込んできた。
一体なんの用事だろう?
「はい。わたしが錬金術士ですよ?」
「お前みたいな子供が? 間違いないのか?」
「当然です。それが何か?」
「信じられんな。錬金術士だというなら何か作ってみせろ」
「まあ、いいですけど。普通の傷薬でいいですか?」
「なんでも構わん。さっさとやれ」
何、この人。
偉そうにして。
作れと言われれば作るけど。
「シシ、お願い」
「にゃおう」
あ、シシもあんまり乗り気じゃないみたい。
まあ、やるとするか。
シシの頭の上に錬金釜を浮かべてと。
「な、なんだ!? 鍋が浮いている!? これも錬金術か!?」
「ただ魔法で浮かせているだけですよ。うるさい人だなぁ」
「な、うるさいだと!?」
「はいはい、シシ始めるよ」
「にゃうにゃ」
わたしはバッグから薬草を採りだして釜の中に放り込む。
そして、いつも通り釜をかき混ぜれば完成だ。
「はい。出来ましたよ、傷薬」
「これが錬金術士の傷薬なのか? 本物の?」
「本物ですよ。しつこい人ですね」
「うるさい、小娘が! 本物だというなら自分で使って見せよ!」
「自分で使うにも怪我なんてしてませんよ」
頭の悪そうなおじさんだなぁ。
怪我もしていないのに傷薬なんてどう使えって言うんだろう。
そう考えながら傷薬を見ていたら、この人がわたしのことを蹴飛ばそうとしてきた。
その前にシシに防がれて自分が怪我してるけど、危ないなぁ。
わたしが怪我したらどうするんだろう?
わたしを蹴ろうとした人はシシに足を引き裂かれて倒れ込んでいるしどうしたものか。
「ねえ、あなた。わたしを傷つけようとしちゃダメだよ。シシが敵だと認識して攻撃しちゃう」
「しゃーッ!」
「う、うるさい! なんだその魔獣は!? 崇高なる私の足に傷を付けるとはいい度胸だな!」
「本当にうるさい人だなぁ。はい、傷薬。効果もわかるしちょうどいいでしょう? そのお薬はあげるから帰って」
「この、言わせておけば……ふん、どうやら薬は本物のようだな!」
変な人は足の怪我にわたしの傷薬を塗ったみたい。
怪我が治ると立ち上がり、強引にわたしの手をつかもうとした。
もちろん、間にシシが割って入ったから無事なんだけど。
「くっ、またその魔獣か」
「シシは魔獣じゃないですよ、聖獣です。それよりもあなた、いったい誰ですか? さっきからうるさいししつこいし」
「私のことも知らんのか!? 私は偉大なる貴族、ミモト子爵だぞ!」
「知りません。そもそも〝きぞく〟ってなんですか?」
「なっ!? この、子供だと思い大目に見ていれば……」
本当にうるさいな、この人。
魔法で喋れなくして帰ってもらおうかな?
うん、それがいい。
「ノヴァちゃん、ずいぶん賑やかだけどお客様かい?」
魔法でこのミモト子爵という変な人を動けなくしようとしていたら、奥からスピカさんがやってきた。
スピカさん、裏の薬草畑に行っていたんだけど戻ってきていたみたい。
スピカさんならこの人を知っているかな?
「スピカさん、この人を知っていますか?」
「いいや、知らない人だねぇ。別の街から来たお客様かい?」
「なんだと!? 貴様ら、この私を揃いも揃って知らぬと言うのか!」
「はて? どこかでお目にかかりましたかねぇ?」
「私はミモト子爵だぞ! 平民ならば誰もが知っていなければならぬ存在だ!」
「ミモト子爵様……あいにく、私は知りませんでしたねぇ。領地はどちらでしょうか?」
「領地? そのようなものはない! 選ばれた私は領地を国に返上し、国に仕えることになったのだからな!」
「はあ。それでは失礼ながらちょっとわかりませんねぇ」
「おのれ、おのれ、おのれ! 私が知らなければならぬと言ったのだ! お前たち平民どもは儂の命令に黙って従えばそれでよいのだ! 私の命令は絶対なのだ!」
うわぁ、この人、よくわからないけど関わりたくないかも。
早く帰ってくれないかなぁ。
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