76. アストリート登場
お母さんが公爵様たちに授けた知識は印刷に関わることすべてだった。
つまり、インクや活版印刷のほかに紙の作り方も教えてくれたんだよね。
私の作る紙には品質が劣るだろうけど、それでもいまの物よりは優れるだろうからって。
お母さんは本気で本の印刷から私をなるべく遠ざけたいみたい。
過保護だなぁ。
『これだけの技術があれば、レインボーペンで描かれた絵の印刷以外は人の手だけで行えるでしょう。レインボーペンの印刷だけはいまの文明レベルでは無理ね。そこはノヴァを頼りなさい』
「わかりました。ありがとうございます、フラッシュリンクス様」
『気にしないで。私もノヴァを危険から遠ざけるための処置だから』
お母さん、本当につれない返事しかしない。
本音なんだろうけど、お母さんって本当に私以外の人に心を開いてくれないんだよね。
ほかの聖獣さんたちも人には心を開いてくれないのかな?
『それにしても人が育てた野菜というのもたまにはいいものね。お土産に少しもらって帰ってもいいかしら? 子供たちにも食べさせてあげたいの』
「そう言うことでしたら構いません。明日の朝になりますが、新鮮な物をたくさん仕入れさせていただきますので」
『ありがとう。ノヴァもあまり軽々しく発明品を開示しちゃダメよ。開示するときは相手を選びなさい。ケウギーヌは悪人じゃないようだから問題なかったけど、悪人だったらいいように利用されていたわよ』
「はい。ごめんなさい、お母さん」
『わかればいいのよ。それで、ノヴァは最近なにをしていたのかしら?』
「あのね、私は……」
お母さんと会うのも久しぶりなのでいろいろな事を話させてもらう。
お母さんと会えるのは一年に一度程度だから楽しいな。
そうして話している間に会場が慌ただしくなってきた。
どうやらアストリート様が到着したらしい。
そして全員が入り口のドアを見つめる中、アストリート様は入場してきた。
赤みがかった金髪は背中で切りそろえられ、前髪も目を隠さない長さまで短くなっている。
結い上げられた髪にはティアラも乗せられていて一層美しさに拍車がかかっていた。
頬もお化粧をしているのか薄いピンク色に染まり、ドレスの淡い赤色と相まって赤い花の妖精さんみたい。
きれいだなぁ。
アストリート様は入場すると、まっすぐこちらにやってきて私たちに向かい頭を下げた。
「フラッシュリンクス様、ノヴァ様、シシ様。今回の治療、誠にありがとうございました。おかげで私も日の当たる場所へ堂々と立てるようになりました」
『私のことは気にしないで。あくまでも娘のかわいい我が儘に付き合っただけだから』
「私も気にしないでください。アストリート様が頑張っているからこそ再生の炎を試そうと思ったんです。ね、シシ?」
「にゃう!」
「本当に、本当にありがとうございます。これで私も貴族としての務めを果たすことができます」
「貴族としての務め?」
貴族の務めってなんだろう?
やっぱり貴族になると果たさなくちゃいけない役割も多いのかな?
「はい。貴族としての務め、嫁ぎ先と縁を結んで子をなし、次代を残すということです」
「え!? アストリート様、お嫁に行くんですか!?」
「貴族の女子には基本的に定められた結婚相手というものがいます。その方の元へと嫁ぎ、家同士の縁を結び、嫁ぎ先の家の次代を担うお子を授かるのが貴族女子の役目でございます」
そっか、貴族の女性って結婚することがお役目なんだ。
私には想像できないなぁ。
「ああ、それなんだが……。すまぬが、アストリート。よく聞いてもらいたい」
話を遮るようにして公爵様が割り込んできた。
一体どうしたんだろう?
「アストリート、お前の婚約だが破棄されている。先方から申し込まれたもので私も承諾し、王家も認めた。つまり、いまのお前には嫁ぎ先がない。覚悟ができているのは素晴らしいのだが、申し訳ないな」
あれ、結婚するお相手がいなくなっちゃっていたんだ。
この場合ってどうなるんだろう?
貴族ってよくわからないし、また別の相手を探すのかな?
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