75. ノヴァの発明と活版印刷
アストリート様を待っている間、私たちはそのまま話を続けることにした。
アーテルさんに聞くと、この場でもっとも偉いのはお母さん。
公爵様はお母さんの機嫌を損なわないように必死なんだそうだ。
お母さんはそんな簡単に怒らないのに、変なの。
『そう。人の作る共同体にノヴァを引き込んだのね』
「は、はい。医師ギルドの立ち上げに加わっていただきました。錬金術で作る道具が本を作る際に必要でして」
『ふうん。ノヴァ、どんな道具を作っているの?』
「え? 魔力でどんな色でも出せるペンとそのペンに反応して同じ色を出せるインク、それからペンで書いた文字や絵を写し取る板。あとは、文章を紙に押しつけたときに残せるようにしたインクと普通の紙かな」
『文章を紙に押しつける?』
「うん。封印って言って手紙に封をするときに押しつける紋章があるの。それと同じように文字を形取ってインクを塗って紙に押しつけたら文字が印刷できたんだ。それを一ページ分用意して紙に押しつけているんだけど、普通に使っているインクだと上手く印刷できないみたいで。錬金術でそのインクも作ったの。ダメだった?」
『そう。あなたはそこまで思いついたのね』
「お母さん?」
お母さんがなにかすごく優しい目でこちらを見ている。
そのまま少し考えた様子を見せてから、公爵様の方に向き直り話を始めた。
『ケウギーヌ、記録をとりなさい。本を大量生産する方法を教えてあげる』
「は?」
『急ぎなさい。一度しか言わないから、一言一句漏らさぬように』
「は、はい! 誰か、急ぎ書記官を呼べ!」
お母さんが公爵様に話した内容、それは私が発見した方法の発展系だった。
まず文字を一文字一文字バラバラに彫り、それをたくさん作っておく。
次に、印刷したいページの内容に合わせてそれらの文字を印刷用の台に並べてはめていく。
そして最後に、インクをつけて紙に押しつけるという方法だ。
こうすれば好きな文字列を好きなだけ組むことができて本が作りやすい。
確かに、決まった文字列を彫る必要はないもんね。
こういう印刷方法を昔の人は活版印刷と呼んでいたらしい。
お母さんがそれを教えてくれたのは、活版印刷に近いところまでのアイディアを私が出したからだって。
活版印刷を考えた人がわからなければ、私を狙ってくる人もいないだろうからって。
お母さんも心配性だなぁ。
あと、インクの作り方も教えてくれた。
活版印刷用のインクは油を中心に作るらしい。
詳しい調合方法はよくわからなかったけど、やっぱり私が作ったインクと同じように粘り気の出るインクになるようだ。
作る方向性は間違えていなかったんだね。
『以上が活版印刷とそれに関係する技術の内容よ。紙に文字を押しつけるときはプレス機を使えばいいわ。プレス機そのものはいまの人の社会にもあるでしょう?』
「はい。油を絞るためのものや道具を作るときのものがあります」
『じゃあ、その原理を応用して作りなさい。そうすればいちいち人が押しつけるよりもきれいでムラなく短時間の印刷ができるわ』
「ありがとうございます、フラッシュリンクス様」
『気にしないでちょうだい。娘が半端に関わって狙われても大変だもの。技術を狙われたときに聖獣から授かった知識だと言えば納得するでしょうからね』
「そうですな。しかし、このような知識をどこで?」
『古代文明の遺産よ。もっとも、この技術は古代文明でも太古に使われていた古い技術なんだけど』
「そうだったのですか……」
『古代文明では一冊の本があれば魔法を使用して何冊でも複写ができたもの。印刷技術だって活版印刷よりも優れたものが開発されていたし、活版印刷は一部の者のみが特徴を出すために使うに留まったわね』
そうなんだ。
印刷方法でも違いが出るんだね。
ということは昔の文明ではそれだけたくさんの印刷方法があったってこと。
昔の人たちはすごいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます