57. 医師の教本
薬草についての違いを確認させてもらった私は、次に医師の知識を教えてもらうため、モーリーさんの仕事部屋を訪れた。
そこには様々な薬草や機材が隙間なく並べられている。
あんなにいっぱいで邪魔にならないのかな?
「いや、座る場所もなくて申し訳ない。私も日々の研究で忙しかったのだ」
「構いませんが……ここまでびっしりものが並んでいると邪魔になりませんか?」
「いや、そんなことはないぞ? どこになにがあるか覚えていれば使いやすいものだ」
そういうものなのかなぁ?
絶対になにかが違うと思うんだけど。
とにかく、私はモーリーさんが愛用しているという医学書を見せてもらうことにした。
それはこの国の言葉ではなく、大陸共通語でもない文字で書かれている。
でも、私もこの文字なら読めるから問題ないね。
早速、本を開いて序文から読んでみるけど……よくわからない。
命の水ってなに?
神秘の薬草なんて本当にあるの?
錬金術士だってこんな本は書かないと思うんだけど、大丈夫なのかなぁ。
ちょっと序文はよくわからなかったけど内容へと進む。
序盤は薬草の調合についてだね。
なるほど、これならやり方の絵もついているし、よくわかるかも。
薬草の乾燥具合はパリパリにならない程度っと。
私の本には書いていかなかったからメモをしておこう。
次は扱う薬草の種類だけど……あれ?
図で書かれているけど、真っ黒でどれがどれだかわからない。
葉の形や特徴などを注釈で説明しているから、これで判別すればいいのかな?
よくわかんないや。
その次からは医学の内容。
私にはまだ早いからここも省略しておこう。
本の末尾には薬草のサンプル図が載っていたけど、どれも真っ黒でわかりにくい。
でも、私が買った本も似たようなものだし、仕方がないのかな。
私は本を読み終えて閉じると、机の上に本を戻した。
すると、早速モーリーさんが感想を聞いてくる。
さて、どう答えようか。
「えっと、序文はなにを書いてあるかわかりませんでした。命の水とか奇跡の薬草なんて聞いたこともありません」
「そうなのか? 医師や薬師の間では錬金術士の薬のことだと噂されているが」
「そうなんですか? でも、私は作れませんし、なにのことを指しているのかわからないことにはどうにも」
「それもそうか。では薬草の調合方法については?」
「そっちはわかりやすかったです。私の読んだ本では説明されていなかった調合方法なども載っていました。それに、薬草の処理の仕方。あれは詳しくてわかりやすかったです」
「なるほど。錬金術士にかかれば薬草の下処理など不要だからな。むしろ、新鮮ならば新鮮なほど都合がいいか」
「はい。そうなりますね」
モーリーさんも錬金術のことをよくわかっているみたい。
錬金術って素材の鮮度で効能が変わっちゃうから、鮮度のいい素材を集めることも大切なんだ。
だからこそ、薬草園は重宝するんだよね。
毎日決まった種類の薬草が決まった数だけ手に入るだけでなく、新鮮な状態で手に入るからね。
「調合方法についてはお眼鏡にかなったようだな。次の薬草の種類や選別方法については?」
「ごめんなさい、モーリーさん。あまりよくわかりませんでした」
「やはりか。私も弟子たちにその本を何度も読ませてはいるのだが、薬草の種類がわかりにくいとすこぶる不評でな」
「真っ黒い絵だけであとは花の色とかが注釈でついているだけです。これではわからないんじゃないですか?」
「それはそうなのだがなぁ。私の時代はその絵を頼りに薬草の種類を判別していったものなのだよ。私も、その絵と勘を頼りに薬草を調べだした」
勘を頼りって。
治療する側が勘を頼りにしちゃいけないと思うんだ。
「ともかく、やはり薬草の種類を書いてあるページは不評か。そのあとは医術に関わる分野だから読んでいなかったな。医術は学んでいないのか?」
「医学書は読んだので多少の知識はあります。でも、詳しい知識はまだまだ足りません」
「それがわかっているならばよろしい。どれ、医学部分の手ほどきをしてあげようではないか」
「いいんですか?」
「なに、気にする程のことではない。よく聞きなさい」
そのあとモーリーさんは私に医学についての講義を行ってくれた。
部屋にあったよくわからないもののうち、いくつかは医学の教材だったみたい。
血がめぐる方法とか内臓の働きとかがわかってすっごくためになった!
途中でアーテルさんが昼食に誘ってくれなかったら、夜までずっと講義を受けていたかも。
新しい知識を蓄えるのって楽しいね。
明日もモーリーさんはいろいろと教えてくれるらしいから、よく覚えて帰ろう。
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