第二章 薬草学と錬金術

56. 薬草学から見た薬草、錬金術から見た薬草

 発熱で倒れていたモーリーさんも、わたしの処方した解熱剤を飲んでひと晩で回復した。

 問題は、いままで間違った薬を処方していたモーリーさんへの処罰だよね。

 公爵様はどうするんだろう?


「モーリーよ。覚悟はできているな」


「はい。どのような処罰でも受け入れる覚悟です、公爵様」


 公爵様とモーリーさんの間で緊張感が増している。

 私とアーテルさんもこの場に付き合うよう言われたから一緒にいるけど、どうしてなんだろう。


「モーリー、お前に言い渡す処罰はこうだ。錬金術士ノヴァが屋敷に滞在している間、可能な限り薬草の知識を再確認してもらえ。その際、お前の医療技術も惜しまず教えよ。わかったな」


「その程度のことでよろしいのですか? 私にとって、医療技術を広めることは願ってもない好機なのですが……」


「構わん。元はといえば伝わっている薬草の知識が半端だったせいで起こった事件だ。この機会に薬草の知識を総点検してもらえ」


「寛大な処置ありがとうございます」


 あっちは丸く収まったみたい。

 大きな罰にならなくてよかったよ。


「錬金術士ノヴァ。勝手に決めてしまったが構わないか? 君の役割は薬草の効能を教えること。見返りはモーリーの持つ医療知識の伝授だ」


 あ、私にも仕事ができていたんだっけ。

 でも、医療知識が手に入るんだったら問題ないよね!


「はい。お引き受けいたします。私の薬草知識は錬金術で扱うものですがよろしいでしょうか?」


「そちらもそれで構わない。グラシアノに処方される薬を見ただけで効能がわかったのだ。錬金術の薬も薬師の薬と大差ないのだろう。よろしく頼む」


「わかりました。モーリーさん、よろしくお願いします」


「こちらこそ。それでは公爵様、早速ですがノヴァ様のお知恵をお借りしたいと思います」


「そなたも自身の知識のためなら貪欲だな。ノヴァに迷惑をかけると聖獣が飛んでくることを忘れるな」


「はい。肝に銘じます。それではノヴァ様、薬草園に参りましょう」


 薬草園!

 このお屋敷にも薬草園があるんだ!


「はい! ぜひ!」


 公爵様のお屋敷にある薬草園ってどんな薬草が生えているんだろう?

 なんだか楽しみになってきちゃった!


「……アーテルよ。ノヴァも知識を蓄えることには貪欲か?」


「難しい医療書六冊を九ヶ月程度で読み終え、それを実践で生かせる程度には貪欲です」


「無理しない程度に調節してやってくれ。モーリーも知識を蓄えることについては寝食を忘れるタイプだ」


「はい、父さん」



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 私たちは公爵様のお屋敷の中庭に出ると、そこから歩いてしばらく行ったところにある、柵で囲われた一角へとたどり着いた。

 この柵、外から種子や鳥が飛んでこないようにするための魔導具だ。

 やっぱりお金持ちなんだなぁ。


「ここか公爵様の屋敷の薬草畑です。まずはなにをご覧に入れましょう?」


「じゃあ、基本的なところで『冒険者の薬草』って育てていますか?」


「ええ。少量ですが育てています。こちらへどうぞ」


 モーリーさんに案内された場所に行くと、よく冒険者さんが持ち歩いている薬草があった。

 間違いなく『冒険者の薬草』だね。


「私どもはこれを傷薬としては見ておらず、止血や化膿止めなどの応急処置薬として見ております。間違っておりますでしょうか?」


「いえ、その見識であっています。私の見立てでも、傷を治す効果は軽微で、ほとんどは止血や化膿止め、殺菌などの効果ですから」


「それはよかった。ちなみに、この薬を処方しすぎて困ることはありますかな?」


「ええと、傷の治りが逆に遅くなりそう? そんな気がします。葉を潰して使っても、煎じても、そのままでも傷口にそのまま振りかけるタイプなので使いすぎには注意ですね」


「なるほど。その注意事項も私どもの記録とあっている。この調子なら錬金術と薬草学の知識の差は少ないのかもしれませんな」


 案外そうなのかもしれないね。

 実際、いろいろな薬草のところを案内してもらったけど、差異があった薬草はほとんどなかった。

 差があったのは、処方しすぎたときの悪い効果の出方だったんだけど、これは錬金術のお薬が強すぎるからじゃないのかって話で収まったんだ。

 錬金術のお薬の効果が高いのはよく知っているから、処方しすぎにも注意しているもん。

 やっぱり、薬は用法と用量を守るのが大切なんだね。

 使いすぎは体に毒なんだよ。

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