第三章 レインボーペンと押し込み印刷
59. まずは薬草の絵の改善から
私はモーリーさんやアーテルさんと話した翌日も、なんとか医学を普及させる手段がないか考えていた。
でも、やっぱり普及方法の壁にぶつかっちゃうんだよね。
どうしよう。
私はふらふらと屋敷の中を歩み、中庭にある薬草園へと足を向ける。
薬草園ではモーリーさんのお弟子さんのローレンさんが熱心になにかを描いていた。
なにをしているんだろう?
「ローレンさん、なにをしているんですか?」
「ああ、ノヴァ様。これは薬草のスケッチをしているのです」
「薬草のスケッチ」
「はい。ノヴァ様に教えていただいたおかげで薬草類の知識もかなり深まりました。そのため、各種薬草を絵にして残そうとしているのですが、これがなかなか……」
「拝見してもいいですか?」
「はい、どうぞ。わかりにくいかもしれませんが」
「では、失礼します」
ローレンさんが紙に描いていた薬草だけど、どれも似たような絵になってしまっている。
薬草ごとの特徴を注釈でつけているけど、これだけじゃわかりにくいよね。
葉の部分が緑色とか黄緑色とか書かれても、どの程度の色なのかはっきりしないし。
こういうときは色つきの絵の具で描けばいいんだけど、そんなことしていたら薬草一枚描くだけで一日が終わってしまう。
なにかいい方法は……あ、あれだ!
「ローレンさん、このペンを使ってください!」
「このペン。一体なんでしょう?」
「これはレインボーペンといって魔力を込めながら線を引けば描きたいように色が出るんです!」
「それはすごい! それも錬金術の道具ですか?」
「はい、そうなります。どうぞ使ってみてください」
「では。……これはいいですね! 薬草の色をそのまま絵に残せるので注釈で色を指定する必要がなくなりました。それに注釈だとわかりにくかった細かな色の違いまではっきりとわかります。これは革命的ですよ!」
なんだろう、すっごく嬉しくなってきちゃった!
元々は初めて商隊を見た時、思いつきで作ったものだけど、こうして役立つとなんだかこみ上げるものがあるよ!
そうか、薬草の絵はレインボーペンで描いてもらえばいいんだ!
「ノヴァ様、このペンを数日お借りしてもよろしいでしょうか? 薬草のスケッチをこのペンで行いたいのです」
「構いません。そのペンは差し上げますよ。レインボーペンの替えはそれなりに作ってありますから」
「ほう! では、師匠とも話をしてみて複数本をいただくこともできますか? もちろんお代は払います」
「できます。でも、一応錬金術の道具だから公爵様の許可が必要かも」
「なるほど。それではまず公爵様のご許可をいただかねばなりませんね。ひとまず師匠のところに向かいましょう。師匠から公爵様に面会許可を取ってもらいます」
「はい。よろしくお願いします」
私とローレンさんはレインボーペンとそれで描いた絵を持ってモーリーさんのところへと行った。
モーリーさんはその絵に大変驚き、「こういう道具があるのでしたら昨日教えてください」と言われたよ。
仕方がないじゃない、こういう使い方を思いついたのもついさっきなんだから。
ともかく、この使い方は非常に有効な手段になるため、早速公爵様の許可をもらうために面談の申し込みを行った。
公爵様は今日時間が空いていたみたいで今日の午後から会ってもらえるみたい。
ローレンさんはそれまでに見本の絵をたくさん描いておくつもりみたいだね。
私はその邪魔をしないようにモーリーさんと今後の話をするけど。
「モーリーさん。あの絵が出回れば少しでも医学が普及しますか?」
「そうですね、いままでよりは普及しやすくなるでしょう。ですが、それも限定的でしょうな」
「そうなんですか? カラフルな絵付きの医学書って貴重な資料になると思うんですが」
「貴重な資料止まりだからですよ。確かに、あのペンがあれば薬草の絵をまとめて描き記すことで、いままでよりもわかりやすい本ができるでしょう。ですが、その本を作るにも絵を描く者が必要なのです。絵を描く者も薬草の知識に精通していなければいけませんし、描ける数量にも限度があります。大量生産できなければ意味がないのですよ」
そっか、私の夢を叶えるには医学書の大量生産も必要なんだった。
うーん、上手く行くと思ったんだけどなぁ。
やっぱり、そう簡単にはことが運ばないか。
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