60. 本を増産するにはどうすればいい?

 結局、医学書を増産する見込みはつかないまま公爵様との面会時間となった。

 私とモーリーさん、ローレンさんはレインボーペンとレインボーペンで描いた絵を持って公爵様の執務室へ向かう。

 なにか本を増産する方法はないかなぁ。


「ほほう! これは画期的ではないか!」


 公爵様の執務室に着いたあと、公爵様に絵を見せるととても喜んでくれた。

 細かい部分まで色分けされた絵なんて滅多に見られないからね。

 それが、今日の午前中から描き始めただけで数枚完成しているんだから驚くだろう。


「それで、モーリーたちはそのレインボーペンを今後も使っていきたいのだな?」


「はい。このペンがあればどのような色の変化も再現可能です。薬草を煎じる前と煎じたあとの微細な色の違いさえ描き手が感じ取れればわかる品、是非とも使わせていただきたく存じ上げます」


「そうか。ノヴァは売ることに抵抗はないか?」


「私は構いません。量産も素材さえ手に入れば可能です。ただ、これも錬金術で作った道具ですよね? そんな簡単に売り広めていいんですか?」


「ふむ。フルートリオン以外では大っぴらに売ってほしくはないが、我が公爵家内で使う分には問題なかろう。それに、錬金術で生み出されたとはいえ薬ではなく魔法の道具だ。そんな大きな問題にはならんよ」


 なるほど、慎重にならなくちゃいけないのはお薬であって魔法の道具ではないんだね。

 でも、普通の魔導具と勘違いされても困るから、お店にはおかないでおこう。


「それで、公爵様。私はそれを使って医学書を作りたいのですがどうでしょうか?」


「うん? ノヴァは医学書を作りたいのか? それはなぜ?」


 私はモーリーさんにも語った医学を普及させたい理由を公爵様にも話した。

 それを聞いた公爵様は機嫌良く頷いて言葉を返してくれた。


「そうか! 医学の普及か! それはよいな!」


「公爵様、本当によろしいのですか? 神殿連中の利権とかち合うことになりますが」


 モーリーさんが医学を普及させると神殿とケンカになるかもしれないと教えてくれた。

 私には理由がよくわからなかったのでそれも聞いてみると、神殿では怪我や病気を治すことでお布施としてお金をもらっているらしい。

 でも、医者が増えるとそちらにも客が行ってしまい神殿の収入が減ることになるからだそうだ。

 私たちには関係がないのに、変なの。


「モーリー、心配するな。私とて公爵、その程度の権力はある。それに、神殿の思い上がりには手を焼いていたところだ。ここらで少し利益を吸い取ってやるべきだろうな」


 公爵様の説明によれば、神殿の人たちは最近治療費を値上げし続けているらしい。

 骨折の治療費は前の四倍以上になってるんだって。

 グラシアノ様の治療にも多額の治療費を請求されていたようだ。

 最終的に解決したのは公爵邸の医師となっているため、神殿の人たちへの治療費は請求額よりかなり減額されたみたいだけど、それでも非常に高かったみたい。

 そんな神殿への牽制としても医学の普及には力を貸してくれると公爵様は約束してくれた。

 頼りになるね。

 次の問題は医学書をたくさん、なるべく安く作る方法かな。

 文字を読めるかどうかとか、それを教える人はどうするのかとかいろいろと問題はあるけれど、医学書が手に入らないことには先へと進めない。

 さて、どうしよう。

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