61. 封印からヒントを得てみた
医学書をたくさん作る方法は難航した。
そもそも、人の手で書く以上どうしても限界があるんだよね。
そのせいで値段も高くなっているらしいし、どうにかならないかな。
「公爵様、人の手を使わずに文字を書く方法なんて知りませんよね?」
「知らぬな。古代文明では本を量産する機械もあったそうだが、現存する機械があるという話を聞いたことはない。もしあったとしても手に入れることは困難だろう」
だよねぇ。
本を増やす方法が決まらないとこの先には進めないんだけどなぁ。
うーん、錬金術で増やすにしても方法がない。
なにかいい方法は……あれ?
公爵様の机の上に置いてある手紙についている赤いのってなんだろう?
勝手に見ちゃまずいから公爵様に許可をもらわないとね。
「あの、公爵様。公爵様の机の上にある手紙の赤い印みたいな物ってなんですか?」
「ん? ああ、しまい忘れていたな。あれは封印という。蝋を溶かして手紙の封に垂らしたあと、紋章などをかたどった印を押しつけて手紙が開けられていないことの証明とするのだ。まあ、貴族の習わしだな」
「なるほど。紋章などを押しつけて……あれ?」
「どうした?」
「紋章を押しつけたら紋章の形が残るんですよね?」
「当然だ。それがなにか?」
「じゃあ、文字を書いてそれを押しつけたら文字が残るんじゃないですか?」
その言葉に部屋にいた人全員が黙り込んでしまった。
あれ?
そんなに変わった事を言ったかな?
「そ、それだ! 文字を押しつけてインクを紙に残せばよいのだ!」
「公爵様、ですがどうやってそれを実現いたしましょう? 今回目指す物は文字ではなく文章、それも本の一ページに渡る文章です。それを実現するにはどうやって?」
「私にもいまはわからぬ。だが、文字を押しつけて印刷するというのはよい考えだと私は思う。なぜ、いままでそれを試した者がいないのか?」
「公爵様、普通に文字をなにかに彫って紙に貼り付けたのでは、文字部分が白く残る形となりますが、それはいかがしましょう」
「それは型に文字を彫り、その型から押印する文章を抜き出せばよい。そうすれば、文字部分にインクが乗る」
そのあとも公爵様たちの間で活発な議論が繰り広げられた。
私にはよくわからないけど、少しでも役に立てたのなら嬉しいかな。
「ふむ、道筋は見えたな。まずは文字一文字で試し、次は単語ひとつ、そしてひとつの文章、一ページと段階を踏んで増やしていけばよい」
「そうですね。使うインクなど考えなければいけない部分も多々ありますが、そちらは今後改良を加えていく上でなんとかしましょう」
「ああ。そうするとしよう。この知恵を出してくれたノヴァには褒美も出さねばならぬな。まずは第一段階が成功してからだが、医学の普及に十分な支援を約束しよう。期待していてくれ」
「はい!」
やった!
よくわからないけれど、公爵様が医学の普及に協力してくれることになった。
貴族ってやっぱり偉い人だからいろいろとできるよね?
これで少しでも先に進めそう!
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