第一章 魔力0の少女
2. その少女、魔力皆無につき
「間違いありませんな。その少女に魔力はありません」
今日は三年に一度の祝福の日。
本当は毎年行われて五歳になった子供たちが祝福を受けるらしいんだけど、村には神官様がいないから神官様が来る三年に一度が祝福の日なんだって。
「そんな! 本当ですか!?」
「間違いはないのですか!?」
「神の言葉に間違いなどありません。その子は魔力ゼロです」
今日は普段とは違うきれいな服を着ておめかししてきたんだけど、お父さんもお母さんも様子がおかしい。
魔力がどうのって言うのがそんなに重要なのかな?
「魔力がないだなんて……それではこの子は」
「この先、生きていくだけでも大変でしょう。村でしたらなおのこと生きにくい。どうです、街で奉公先を探しては?」
「……いえ、そのような村の恥さらしになる真似もできません」
「村の恥さらしなど。魔力がないだけ、魔法適性がないだけですぞ?」
「それだけでも十分な恥さらしです。私たちも覚悟を決めます」
お父さんとお母さんはさっきから神官様と難しいことを話している。
一体、なんの話をしているのかな?
「……わかりました。神官としては認めたくないことですが、それがあなた方の道でしたら何も言いますまい」
「ありがとうございます、神官様」
「ありがとうございました。本日の謝礼です」
お母さんは神官様になにかの袋を渡した。
そして、わたしはお父さんとお母さんに連れられて神官様がいる建物の外に連れ出されたんだ。
今日はごちそうだって聞いているからすっごく楽しみ!
実際、家に帰ってお母さんが用意してくれたご飯は普段よりもたくさんあったの!
でも、お父さんとお母さんは食べようとしないんだ。
理由を聞いても「それはお前のための料理だから」としか教えてくれない。
変なお父さんとお母さん。
でも、たくさん食べていいならたくさん食べちゃう!
普段はこんなに食べられないもん!
あれ、でも、ご飯を食べていたら眠くなってきちゃった……。
ご飯、食べ過ぎたかなぁ……。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「どうやら眠ったようだな」
「魔力なしなんて村の恥さらしが。身体強化もろくにできやしないんじゃ体を売って働くしかできないじゃないのさ」
「そう言うな、この子に罪はない。村に置いておくこともできなくなったが」
「そうだね。早く運びだしましょう。睡眠薬が切れる前に」
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「……あれ? ここ、どこ?」
目が覚めたら知らない森の中だった。
服も着ていないしどうなっているんだろう?
「ゆめ?」
夢だとしても肌にチクチク刺さる草の感覚が強い。
本当に夢なのかなぁ?
「お父さん、お母さん、どこ?」
わたしは裸足の足で森の中を歩き始めた。
雑草だけじゃなくてときどき落ちている木の枝の触感が生々しい。
これ、本当に夢?
「お父さん、お母さん……」
いくら呼びかけても反応はない。
だってここは森の中。
深い緑の気配しかしない場所だもん。
夢なら早く覚めてほしいな。
「お父さん! お母さん! どこ!」
ついわたしは大声でお父さんとお母さんを呼んでしまう。
でも、やっぱり反応はなくって。
とっても悲しくなってきた。
「うう……ふええん! お父さん、お母さん、どこぉ……」
わたしは悲しくなってその場でしゃがみ込んで泣きだしてしまう。
そうすればいつかこの悪夢も覚めるはずだから。
そう思っていたのにいつまで経っても夢が覚める気配がない。
どうして?
わたし、何か悪いことをした?
「昨日、わたしが魔力なしって言われていたことと関係するのかなぁ」
魔力がないと悪夢を見るのかも知れない。
それなら納得できる。
早くこの悪夢が覚めてくれますように。
でも、全然夢は覚めてくれなくて。
目が覚めたときは空が明るかったのに、だんだん赤く染まっていっていまじゃ真っ暗になっちゃった。
夜の森ってなんだか不気味……。
まだ夢が覚めないのかなぁ。
「おとぉさん、おかぁさん、どこぉ……」
わたしは暗い森をあてどなくさまよっていた。
いつまで経っても目が覚めないのは、きっとわたしがゴールまでたどり着いていないからだ。
ゴールにたどり着けば目が覚める。
そして、いつもの朝が始まるんだ。
朝起きたら顔を洗って、お母さんが作った朝食を食べて、お父さんの畑の手伝いをする。
そして、いつもの友達と一緒に遊ぶ。
いつも通りの毎日が始まるはずなのに、全然目が覚めないよぉ。
「おとぉさん、おかぁさん。どっちにいけばいいの……」
暗い森を歩き続け何度も転びながら進む。
転んだ拍子に夢が覚めないかなと願いつつもダメだった。
どうすればいいんだろう?
「おとーさん!! おかーさん!! どこ!!」
わたしは力の限り全力で叫び声を出す。
朝から何も食べてないし飲んでないからお腹も空いたし喉もカラカラだ。
このままだと空腹で動けなくなっちゃうかも。
そんなとき、背後の草むらがガサガサと音を立てた。
「あ! お父さん! お母さん!」
期待して振り向いたけどそこにはお父さんもお母さんもいない。
代わりにいたのは……わたしなんかよりもはるかに背の高い熊だった。
「あわ、わわわ……」
「GURUUU」
熊はわたしのことをじっと見ている。
わたしも熊のことをじっと見ている。
目をそらしたらダメ。
なんとなくそんな気がする、そんな気がするのに、体は言うことをきかなかった。
「うわあぁぁぁ!?」
わたしは熊に背を向けて一目散に逃げ出した!
背後から熊の足音も聞こえてくる!
わたしなんかよりもずっと速い!
「あっ!?」
真っ暗な中を全力で走れば足元なんて見えはしない。
わたしは木の根っこに足を取られて転んでしまった。
「GURU……」
「ひ……熊さん、あっちに行って……」
わたしの願いなんてお構いなしに熊さんは一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。
後ずさって逃げようにもすぐに木にぶつかって逃げられなくなってしまった。
やがて、熊さんはわたしの目の前まで来て立ち上がり、わたしを食べる準備を始める。
でも、その瞬間、熊さんが真っ白い炎に包まれて焼かれていった!
「GUGYAUUUU!?」
「え……なに?」
熊さんはそのまま真っ白い炎に焼かれて死んでしまい、灰すら残さず消えてしまった。
そして、熊さんの背後にはもう一匹の獣がいた。
真っ白い体毛、赤く輝く瞳、炎でできた尻尾と額に揺らめく炎。
こんな生き物見たことも聞いたこともない。
一体なんなのだろう?
『大丈夫? 怪我はないかしら、お嬢さん』
「ひゃい!?」
真っ白い獣が話しかけてきた!
わたし、どうすれば!?
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