辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女ノヴァ ~魔力0の捨てられ少女はかわいいモフモフ聖獣とともにこの地では珍しい錬金術で幸せをつかみ取ります~

あきさけ

第一部 辺境の街で雑貨店を営む錬金術士少女

1. 私はノヴァ、錬金術士、八歳

 私はベッドから起きると窓を開け、空を見上げた。

 今日もフルートリオンの街はいい天気。

 この寝室から見える裏庭の草花たちも朝日を浴びて元気そう!

 外の様子を眺めながら今日の予定を考えていると、後ろから猫の鳴き声が聞こえてきた。


「にゃ~あ」


「あ、ごめんね、シシ。朝ご飯だよね」


 この子はシシ。

 あたしの従魔で聖獣フラッシュリンクス……の幼獣。

 見た目は完全に生後一カ月くらいの子猫ちゃん。

 でも、その力は本物で、大型の魔物だって一瞬で消し炭にできるほどの魔力を持っているんだ!

 ただ、魔力は契約している私と共有だからそんな火力を出されると、私が魔力不足で気持ち悪くなっちゃうんだけどね。


「にゃ~お!」


「はいはい、そんなに急かさないの。いまお野菜を出してあげるから」


「にゃあ!」


 フラッシュリンクスは見た目猫だけど、草食が基本。

 お肉も食べるけどあまり気乗りはしないってお母さんが言ってた。

 どんなにうまくさばいても残る血なまぐささが嫌なんだそうな。

 そういうわけで、お母さんが肉をあまり食べなかったから私もあまりお肉は食べない。

 お母さんやお兄ちゃんたちは気にするなって言ってくれたんだけど、やっぱり家族の中で私だけが違うものを食べるって気になるからね。

 私もお肉、苦手だし。


「それじゃあ。今日の恵みを神に感謝いたします」


「にゃにゃ」


 食事の前のあいさつを済ませたら私もシシもお野菜に手を付ける。

 私の食事は昨日作ってアイテムバッグにしまっておいた野菜炒めと果実水、シシの食事は昨日の夕方採っておいたお野菜と果物だ。

 私もシシも十分ほどで食べ終え、お皿を洗って拭き、食器棚に戻す。

 ここまでは朝食の範囲。

 ここから先はお店の開店準備になる。


「さて、今日はどの子が元気なんだろうね?」


「にゃ~ふ?」


 シシと連れだって裏庭につながる扉を開け、裏庭に作った薬草園にくり出した。

 薬草園には青々とした薬草類に色とりどりの花々、あと隅っこの方に私たちが食べる分の野菜畑がある。

 私は薬草園にはいると、早速薬草たちの声に耳を傾けた。

 ふむふむ、なるほど。

 今日、調子がいいのはこの子だね。

 こっちの子は元気がないな。

 水魔法で水分と栄養を与えてあげよう。

 あ、この子はやる気満々!

 早速薬にしてあげなくちゃ!

 あっちの花も今日が一番だって教えてくれているね。

 あの花は鎮痛剤に使えるからそうしてあげよう。

 

「うん。今日もばっちり素材が集まった! みんな、また後でお水をあげに来るからね!」


「にゃお!」


 私は裏庭から家の中に戻ると店舗の方へと向かう。

 店舗部の入り口は調合部屋になっていてそこでいろいろなお薬を作るんだ。

 今日は……何を作ろうかな?


「ええっと。鎮痛剤は作らないとダメだよね。あと傷薬と目薬も必要だったかな? それから足りないものは……」


 私はお店の在庫一覧を見ながら足りないお薬の在庫を確認していく。

 昨日もそこそこに売れたから結構作らなくちゃダメみたい。

 特に傷薬、これの売れ方が毎日のことながら多い。

 たくさんの冒険者さんがこぞって買っていくからなんだけど、怪我をするようなことはやめてほしいな。

 この街には〝奇跡〟を使える神官様がいないため、私が作るお薬が生命線なのはわかるし、冒険者さんのお仕事が命がけなのもこの二年で理解したよ。

 でも、できるだけ怪我をするような無茶はしないでほしいっていうのが本音。

 怪我をするようなことをしなくちゃいけないのもわかるけどね。


「……よし、足りないものの一覧はできた! えーと、優先しなくちゃいけないのは傷薬だよね。あと、鎮痛剤も急がなくちゃいけない。うーん、私がふたりいればたくさん調合できるのに!」


「にゃーお……」


 どうにもならないことを言っていたらシシに呆れられてしまった。

 うん、私はひとりだものね。

 泣き言を言っていても始まらないよね。

 さて、私の調合、私の錬金術を始めちゃおう!


「シシ! 錬金釜、スタンバイ!」


「にゃおう!」


 シシが調合部屋に設置してある大きな鍋、錬金釜の下に潜り込んだ。

 そして全身から炎を吹き上げ、錬金釜を熱してくれる。

 するとだんだんと錬金釜の中に光があふれ出し、やがて虹色の光であふれかえった。

 錬金術の準備、完了だね!


「パパッとやっちゃおう! 開店時間まであまりないし!」


「うにゃう!」


「さあ、みんな! 元気にな~れ! ふっふふのふ~ん♪」


「にゃっにゃにゃにゃにゃー!」


 私は頭の中に浮かんでくる手順通りに薬草や花、お水などの素材を入れていく。

 すると錬金釜の中でそれらは光の粒となって一体化し、外に飛び出してくるときには別の物質へと変わっていた。

 これが私の調合、私の錬金術。

 素材の声を聞き取り、素材を別のものへと作り替える技術だ。

 錬金術を使える人ってみんな王都って場所に集められて仕事をしているらしいけれど私には関係ない。

 私にはこのお店が仕事場であり生活する場所なんだから。


「おーい、ノヴァ。いるかー?」


「あ、もう。まだ開店時間前ですよ!」


「わりぃ。こっちも急いでいるんだよ」


「まったく、冒険者さんってこれだから。……おばあちゃん、行ってきます」


 私は完成したお薬を持ってお店を開けに向かう。

 私の名前はノヴァ。

 ここ、辺境の街フルートリオンで雑貨店を営む八歳の錬金術士だ。

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