10. 目覚めてみると……

「う、ううん……」


 あれ、わたし、どうしていたんだっけ?

 確か、末っ子フラッシュリンクスさんと従魔契約をしようとして、そのまま意識が遠のいて……。

 だめ、これ以上思い出せない。


「にゃう! にゃうにゃう!」


「あ、末っ子フラッシュリンクスさん。おはよう」


 木の葉のベッドの横には末っ子フラッシュリンクスさんがいた。

 末っ子フラッシュリンクスさんはわたしが目覚めたのを確認すると大きな声で鳴き、通路の方へ駆け出していった。

 変な末っ子フラッシュリンクスさん。

 あれ、でもなんだかわたしの体が変なような?

 背中になにかがくっついている気がする。

 何だろう?


『ノヴァ! 目を覚ましたか!』


『心配したわよ、ノヴァ!』


『ようやくか! ヒヤヒヤさせやがって!』


「ええと?」


 わたしがもぞもぞする背中をなんとかしようとしていたらお兄さんやお姉さんたちが部屋に飛び込んできた。

 一体なにがあったのかな?


『こら、あなたたち。いきなり全員で話しかけないの』


「あ、お母さん」


『ええ、お母さんよ。ノヴァ、体は大丈夫?』


 体?

 何のことを言っているんだろう?


「平気ですよ? 背中がちょっとムズムズするけど」


『落ち着いて聞きなさい。あなたは従魔契約を行ってから一カ月以上眠っていたの』


「え?」


『それから種族も変わったわ。人間族から天翼族、人間からは〝天使〟と呼ばれる種族に変わったわね。細かく言えば天翼族の中でも上位存在である炎翼族なんだけど』


「……え?」


 状況が飲み込めないわたしはそのまましばらく固まってしまった。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆



『……以上が大体の説明。理解できた?』


「ええと、なんとなく」


 従魔契約を試した後にお母さんが詳しく説明してくれた。

 従魔契約が終了すると同時にわたしは気を失ったんだって。

 倒れるのは長男フラッシュリンクスさんのおかげで大丈夫だったらしいんだけど、二日経っても目が覚めず様子を見に来たらわたしの背中に小さな翼が生えていたらしい。

 その翼は日を追うごとに大きくなっていき、いまではわたしの体を覆い包める程成長していた。

 翼の数は三対。

 お母さんによると、慣れてくれば翼は一対まで隠すことができるらしいけど、すべてを消すことはできないらしい。

 それから、お母さんが魔法で鏡のような物を作ってくれたからわかったんだけど、両耳の上に数本の羽が生えて頭の後ろの方に向かっていた。

 これも天翼族の特徴らしいよ。

 髪の色もピンクっぽい色に変わっていて、肌の色もきれいな白色。

 完全に別人になっちゃった。

 さらに天翼族になった結果、わたしの寿命もものすごく延びたみたい。

 天翼族の中でも上位の炎翼族だから怪我や病気に気を付ければ数万年生きられるんじゃないかって。

 ちょっと頭がクラクラしてきた。

 あとは、空が飛べるらしい。

 らしいというのは試しても浮かぶことすらできなかったためで、お母さんが教えてくれたところによると、魔力の流れが制御できてなくて飛ぶことができていないそうだ。

 こっちも慣れれば自由に飛べるようになるらしいから期待しておこう。


『状況説明は終わったわね。それじゃあ、ひとまずご飯にしましょうか』


「え? わたしお腹が空いていませんよ?」


『天翼族は魔力さえあれば生きていける種族だもの、魔力に満ちたこの空間ではお腹が減らないのは当然よ。でも、食事をしないと物を食べるという体の機能がだんだん失われていくかも知れないの。食事だって一カ月以上取ってないわけだし、一緒に食べましょう』


「そうですね。はい、わかりました」


 食事をしてみてわかったことは、食べ物の味もかなり違って感じるようになったって事。

 人間だったときはお兄さんお姉さんたちに炙ってもらっても苦みを少し感じていた果物だって甘く感じる。

 試しに炙っていない物を食べてみたけどこっちもへっちゃら。

 お母さんに言わせると吸収しなくちゃいけない栄養の種類が変わったことと、体が受ける毒の種類が変わったためなんだって。

 とりあえず、食事に困らなくなったことはいいことだと思う。

 こうして食事も終わり、次になにをするかお母さんに聞くと、わたしの従魔になった末っ子フラッシュリンクスさんの名前決めだった。

 ちなみに、末っ子フラッシュリンクスさんはわたしの膝の上でくつろいでいる。

 のんびりしてるなぁ。


「末っ子フラッシュリンクスさんの名前をわたしが決めていいんですか?」


『ええ。従魔契約の最後は従魔の名前を決めるところなの。いまはまだ従魔契約が半端な状態で止まっているわ。この子に名前を付けてあげて』


 うーん、名前かぁ。

 考えたこともなかったなぁ。


「四番目のお姉さんだから四姉じゃダメ……だよね」


「にゃう、にゃうん」


 末っ子フラッシュリンクスさんはそっぽを向いてしまった。

 やっぱりお気に召さないらしい。

 そうなると……こっちはどうだろう。


「じゃあ、シシっていうのはどうかな?」


「にゃ!」


 あ、こっちは喜んでくれたみたい。

 じゃあ、この子の名前はシシで決定だね!


『その子の名前、シシでいいのね』


「はい。末っ子フラッシュリンクスさんもシシでいいみたいなのでシシにします」


『わかったわ。それでは娘よ、一度ノヴァの膝の上から下りなさい』


「にゃうん!」


 末っ子フラッシュリンクスさんはわたしの膝の上から下り、わたしと向かい合ってくれた。

 この後どうすればいいんだろう?


『ノヴァ。あなたは娘に向かって魔力を送りながら名前を呼んであげて。それで名付けも完了よ』


「わかりました。えっと、こう、かな」


 わたしは体の中にある温かい物を末っ子フラッシュリンクスさんに送り届ける。

 それは温かく燃える炎の色を宿して末っ子フラッシュリンクスさんに届いていた。


「それじゃあ末っ子フラッシュリンクスさん。あなたの名前は〝シシ〟です。これからよろしくね」


「にゃおん!」


 末っ子フラッシュリンクスさん、シシが一鳴きするとシシの体が赤い光で包まれてその姿を隠した。

 少しするとその光りもなくなりシシが姿を現したんだけど少しだけ体の形が変わっていたよ。

 まず、背中……前脚のつけ根あたりから炎の翼が生えて空を飛んでいる。

 それから頭のてっぺんにあった耳もなくなり、空に向かってピシッと生えた羽に変わっていた。

 ちょっとかっこよくなったかも。


『シシも炎翼族であるあなたと契約したことでその姿を変えたようね。これからもシシと仲良くしてあげてね』


「はい、お母さん!」


「にゃあ!」


「……シシ、喋れないの?」


「にゃあ?」


『言葉を話すにはまだ早いみたい。鳴き声や仕草から感情を読み取ってあげて』


「はい!」


「にゃ!」


 あ、いまはシシも「はい」って言った気がする。

 これから一緒に頑張って行こうね、シシ。

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