第三章 旅立ちと新米錬金術士
13. あれから二年が経って
「元気にな~れ! ふっふふのふ~ん♪」
「にゃにゃにゃんにゃ~ん」
「できた! 緑の傷薬!」
フラッシュリンクスのお母さんに助けられてから二年ほどが経った。
あれから錬金術を中心に魔法や体力を鍛えていき、それなりの事ができるようになってきたとわたしは思っている。
いまは結界内に作られたわたしの作業部屋で薬の調合の最中。
結界内に薬草になる草花も育てているから素材に困ることもないし、わたしの錬金術で困る事なんてなーんにもない!
あ、シシがいないと錬金釜を温める火力が不安定で錬金術を使えないんだっけ。
シシには感謝、感謝。
いまだってシシは錬金釜の下に潜り込んで釜を温めてくれているしね。
「あとは、頭痛薬を作って今日は終わりかな? 今日もたくさん薬ができたね! あまり使わないけど」
「にゃふ」
わたしは薬を作る専門の錬金術士だ。
お母さんによると他にも毒薬や爆弾、金属や布、それらを使った製品などを作れるらしいけど、作り方がわからないし毒薬や爆弾なんて作るつもりもない。
薬作り専門でもいいかななんて思い始めている。
天翼族の中でも上位の炎翼族である以上、非常に長い年月を生きるんだから、どこかで服作りくらいは学んでもいいけどさ。
「それにしても、余った薬はお母さんがたまに人里で売っているみたいだけど、それでもまだまだ貯まっていくなぁ。わたしのマジックバッグはお母さんのお手製だからまだまだ入るけど」
「にゃうん」
「使い道がない薬も困るよね」
「にゃう」
シシとの仲も大分良くなった。
いまなら鳴き声だけで大体の感情がわかる。
いまのは「そうだね」って同意かな。
この薬たち、捨てるわけにもいかないしどうしたものか。
『ノヴァ、シシ。錬金術の調合は終わった?』
「あ、ニネェ。いま終わったところ」
わたしと家族の距離もぐーんと縮まった。
お母さんの他に長男フラッシュリンクスさんのことはイチニィ、長女フラッシュリンクスさんはニネェ、次男フラッシュリンクスさんはサンニィと呼んでいる。
そんな安直な名前でいいのかは聞いたことがあるんだけど、契約でもないんだし愛称だから気にしないんだって。
シシの名前もそうだけど聖獣さんってやっぱりヒトの考えとは違うのかも。
『お母様があなた方を呼んでいたわ。用事がないなら来てほしいって』
「わかった。錬金釜を片付けたらすぐに行くよ」
『じゃあ、お母様にもそう伝えておくわ。急がなくてもいいけど怪我をしないようにね。炎翼族がその程度の熱さでやけどなんてしないのはわかっているけど心配だから』
「ありがとう、ニネェ」
そうなんだ。
炎翼族って熱に対する耐性が異様に高い。
試しにシシの本気の炎で焼いてもらったことがあるけど、ちっともやけどをしなかった。
ちょっと暖かいな、程度の感覚だったよ。
じゃあ、寒さに弱いのかと言うとそんなこともない。
一度、氷に閉ざされた場所に連れて行ってもらったけど、寒さを感じることはなかった。
むしろ、翼の熱で氷を溶かさないように気を付ける方が大変だったね。
ともかく、炎翼族って暑さにも寒さにも強く炎にも強い種族らしい。
お母さんも炎翼族については話に聞いただけだったみたいだから、シシの炎で炙られたときはハラハラしていたけどね。
あと、お母さんの炎はさすがに熱かった。
「お母さん来たよ……って、イチニィもサンニィも一緒?」
『ああ、私たちも呼ばれた』
『何か大事な話があるらしいぞ』
「わかった。お母さん、全員揃ったよ」
『そのようね。それじゃあ、話を始めましょうか』
お母さんがわたしたちに向かって話を始める。
全員揃っての話ってなんだろう?
食事のときには全員揃うのに、わざわざ全員を別の時間に集めてまで話をするっていうことは大切な話だよね。
しっかり聞かなくちゃ。
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