12. Let’s 錬金術!

 お母さんからどこからともなく取り出したバッグに集めてきた草花を詰め込み、わたしたちは結界内にある巣まで戻ってきた。

 そこでお母さんが〝れんきんじゅつ〟について教えてくれるらしい。


『ノヴァ、〝錬金術〟について聞いたことは……ないわよね』


「うん、知らないよ」


『でしょうね。かなり珍しい才能だもの。〝錬金術〟というのはある物質から別の物質を作り出す技術なの』


「?」


 お母さんの言っていることがよく理解できない。

〝あるぶっしつからべつのぶっしつをつくりだす〟ってどういうことなんだろう?


『困ったわね。ノヴァは四歳だもの、言葉で説明してもわかるはずがないわ。そうなると実際に試してもらうよりほかないのだけれど』


「試せないの?」


『昔、遺跡で拾ってきた錬金釜があるから試せるわ。でも、どう説明すればいいか』


「れんきんがま?」


『そうね。実物を見せましょうか』


 お母さんはまたなにもないところから、わたしがすっぽり入ってもまだ余裕がある程大きなお鍋を取り出した。

 これが〝れんきんがま〟なのかな?

 ただの大きな鍋に見えるけど。


『ノヴァ、これは何に見える?』


「えっと、ただの大きな鍋」


『そうね。ちなみに、ヒト族の錬金術士が普通に使う錬金釜も普通の巨大な鍋らしいわよ。これは少し違うのだけれど』


「そうなの?」


『まあ、試してみましょう。熱してあげるわ』


 お母さんは〝れんきんがま〟を宙に浮かべてその下に火を灯した。

 かなり強い勢いの炎だね。

 照らされているだけでちょっと熱いかも。


『準備できたようね。ノヴァ、私に乗りなさい。錬金釜の中を見せてあげる』


「はい」


 わたしはお母さんにまたがり、お母さんは宙に浮かんだ。

 そして、〝れんきんがま〟の中が見える高さまできたら、わたしは〝れんきんがま〟の中を覗き込む。

 すると、そこには虹色の光が集まってぐつぐつと煮えていた!

 よくわからないけどすごい!


『これが使用可能な状態の錬金釜よ。普通の鍋などでこの状態にするには水に特別な薬剤を溶かさなくちゃいけないと聞いたことがあるけれど、本当のところはどうなのかしらね?』


「すごい! お母さん、これってどうやって使うの!?」


『……それがわからないのよ』


「え?」


『この状態になると使用可能なのは間違いないの。ただ、ここから先は私には何もできなかったわ』


「そうなの?」


 お母さんってすごいから、なんでもできそうなイメージがあったんだけど違うんだ。

 じゃあ、どうすればいいんだろう?


『その道に詳しい聖獣に昔会ったことがあるから聞いたけど、錬金術の才能がなければ素材を入れても消えるだけらしいわ。逆に才能がある者が素材を入れるとなんとなく作れる物のレシピ……作り方がわかって、自由に物作りができるそうね』


「そうなんだ。わたしにもできる?」


『錬金術の才能はあるみたいだし試してみましょう。ダメだったら諦めればいいのよ』


「うん、わかった」


 何をどうすればいいのかわからないから、まずは持ってきた草花の様子を確認する。

 そうすると、なんとなくだけど、葉っぱの広い草がいいような気がするから、それをつかんでひとつまみ入れてみた。

 草が入った〝れんきんがま〟は虹色の光が強くなってもっと別の物を入れて欲しがっている……ような気がする。

 今度はこっちの花がいいような気がするのでこっちの花を入れてみる。

 また〝れんきんがま〟の光が強くなった。

 もうひとつだけ何かを入れられそうだから、入れて欲しがっている感じの草を入れてみた。

 今度もまた〝れんきんがま〟の光が強くなってこれ以上はもう入らない……っぽい。

 なので、仕上げとして〝れんきんがま〟に魔力を通してあげると、虹色の光が集まりひとつの玉となって私の手の中に収まった。

 光が消えたときに残っていたのは、緑色のなにかが入った小さな壺。

 匂いをかいでみたけど、ちょっと青臭い。

 これって何だろう?


『……驚いたわね。本当に錬金術を使えたわ』


「え? いまのが〝れんきんじゅつ〟?」


『そうよ。錬金術で新しいものを作り出したの。それは多分、傷薬のはずよ』


「傷薬……飲むの?」


『おそらくは塗り薬だと思うけれど、こういうときに知識がないというのも困るわね』


 使い終わった〝れんきんがま〟を地面に下ろし、わたしたちも地面に下りてからお母さんができあがった緑色の何かを少し舐めてみたけど、すごく苦かったみたい。

 やっぱり塗り薬なんじゃないかって。

 ただ、効果を確かめようにもお母さんたちは怪我をしていないし、わたしも怪我をしていない。

 怪我をしていないんじゃ傷薬の効果なんて試せないよね。


「お母さん。これ、どうしよう?」


『前に聞いたとき、同じ物を何度も作っていればそれの使い方も理解できると聞いたわ。とりあえず、その緑色の傷薬のような物を何度も作ってみましょう』


「うん。あ、でも、作っている途中で他の草や花を入れたら別の物ができそうな気がしたの。それも試す?」


『そうね。試せる物は全部試しましょう。素材も近場の草原に行けば手に入るみたいだし、シシが一緒なら安全でしょう。私の子供たちも誰かが一緒に行くでしょうし問題ないわ。これからはどんどん錬金術の練習をしていきましょう』


「うん!」


 いまのが〝れんきんじゅつ〟かぁ。

 ちょっと面白かった!

 なんだか、これからの毎日がワクワクしてきたよ!

〝れんきんがま〟の使い方もお母さんに習ってお母さんがいないときでも使えるようにしよっと!

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