69. アストリート = ユーシュリア
部屋に戻ると早速アーテルさんにアストリートと言う人について聞いてみることにした。
アーテルさんも言いづらそうにしながらも答えてくれる。
なにがそんなに困っているのかな?
「アストリートというのは俺の妹だ。確か今年で十三歳、父さんにとっては次女になる」
「へえ。それで、火傷の治療ってどういう意味ですか?」
「まあ、話を急ぐな。アストリートは幼い頃から頭がよく、嘘を見抜くのも得意だった。わかりやすく言えば賢い子供だな」
ふーん、そうなんだ。
でも、それと火傷とどうつながるんだろう?
「アストリートも乳児期は何事もなく穏やかに過ごしていた。問題は幼少期になった頃だ。その頃になってアストリートの養育にかかる費用が増え始めた。もちろん年齢が上がったことによりドレスなどを買い足したのもあるが、それを加味しても急激な上がり方だったらしい」
「ふむふむ。それで?」
「父さんや兄さんたちはそれを調べ始めたが、その問題を一番早く見抜いたのはまだ幼いアストリートだったんだ。養育費が増えていた理由は、アストリートの養育を任されていたメイド長による着服。アストリートは四歳の時にそれを見抜いちまったんだよ。一種の神童ってやつだな」
うわぁ、四歳でお金のことがわかるんだ!
私が四歳の時ってお母さんのところに引き取られたばかりの頃だよね。
あの頃は文字すら読めなかったのにアストリートって人はすごいなぁ。
「ここまではまだよかったんだ。問題はここから先、そのメイド長がとった行動にある。養育費の流用を指摘されたメイド長は、怒りにまかせてアストリートの顔を焼けた火かき棒で殴りつけたんだよ。その上、顔中に火かき棒を押しつけ、ひどい火傷も負わせてな」
「そんな、あんまりです!」
「俺に言うな。もちろんそのメイド長は、まあ、厳しく罰せられた。残されたのはアストリートの方だ。こっちの方が深刻だったんだよ。顔面中を焼かれたアストリートの肌は膨れ上がって、焼けど薬を使いなんとか一命を取り留めたもののひどい火傷の痕が残った。それが原因でアストリートは部屋にこもりきりになり誰とも会おうとしない。ここまでが俺の知るアストリートのことだな」
「ここまで?」
「ここから先は俺にはわからん。俺も家を出て行くことが決まっていたから、アストリートのことは気がかりでも出ていかざるを得なかったんだよ。出ていく時期をずらすかとも聞かれたが、残っていてもやれることがない。俺は後ろ髪を引かれる思いで家をあとにしたんだ」
そっか、アーテルさんって公爵様の家を出ているんだっけ。
それじゃあ、アストリートさんの近況を知るよしもないか。
うーん、でも、そうなると治療できるかどうかが判断できないなぁ。
「どうだ、ノヴァ。治療できそうか?」
「ええと、判断できません。火傷の跡がどの程度ひどいかもわかりませんし、火傷の際に感染症などにかかっていた可能性もあります。まずは実際に会って診断してみないとなんとも」
「……そうだよな。お前の薬が強力だからと言ってなんでも治せるわけじゃないよな」
「錬金術ではなんでも治せる秘薬というのも存在するらしいです。お母さんから聞いた話によると、その秘薬を使えば死んでさえいなければ腕や脚を失っていても五体満足な体を取り戻せると」
お母さんが言っていた錬金術の秘薬。
これがあれば確実に治療できるけど、作り方がわからない。
作り方がわかったとしても、きっと材料が足りないよね。
無い物ねだりをしても仕方がないし、あるものだけで治療をできないかと言う話になってしまうけれど、どうだろうなぁ。
ちょっと私でも自信がない。
公爵様から正式に依頼されたら考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます