第四章 医師ギルド発足準備

64. グラシアノからのお礼と冒険者のお仕事

「グラシアノと申します。今回は危ないところを助けていただきありがとうございました」


「いえ。元気になられたのでしたら、それで十分ですよ、グラシアノ様」


 公爵様のお屋敷に来てから二週間ほどが過ぎ、グラシアノ様が一般生活に支障がないほど回復したということで、わたしのところにお礼を言いに来てくれた。

 さすがはお貴族様、礼儀もしっかりしているなぁ。


「それにしても、まことだったのですか? 薬の処方間違いというのは」


「はい。私の見立てでもそうでしたし、実際に薬の処方を変えてからグラシアノ様はみるみる回復していきました。間違えたお薬を自分で飲んで確かめたモーリーさんも、自分の薬で高熱が出ることは確認されていますし、間違いありません」


「その件についても、先ほどモーリーから謝罪がありました。モーリーなりに全力で僕を治療してくれていたことが仇になっていただなんて」


「お薬の処方って難しいんです。健康な人が飲めば毒になってしまうお薬だってあります。医者というのも大変なお仕事のようですね」


「ええ、まったく、そのようですね」


 私とグラシアノ様はそのまま少しおしゃべりをした。

 グラシアノ様は七歳とは思えないくらい落ち着いた話し方をするお方だ。

 公爵様の教育が行き届いているのかな?


「それにしても錬金術士ですか。薬草や薬を見ただけで効用がわかるだなんて、医者にとっては羨ましいでしょうね」


「かもしれません。でも、すべての錬金術士が同じような能力を持っているのかわかりません。私がお薬に特化しているだけかも」


「なるほど、そういう考えもありますか。国に連れて行かれたという錬金術士たちがどのような能力を持っていたかだなんて知るよしもないですものね」


 国に連れて行かれた錬金術士かぁ。

 確かスピカおばあちゃんの娘さんもそうなんだよね。

 彼らがいまどうしているのかは、公爵様でさえ知らないらしい。

 無事でいてくれるといいんだけど。


「グラシアノ様。そろそろお部屋に戻るお時間です」


「もうですか? 申し訳ありませんノヴァ様、僕はこれで失礼いたします」


「いえ。お体、お大事になさってください」


 これでグラシアノ様との面談も終了。

 私がフルートリオンへ帰るにはもう少しかかりそう。

 医療技術を記した本の大量生産に一口絡むことになったから、そっちでしばらく時間がとられそうだからね。

 まだまだ決まっていないことも多いしどうなるのかな?


「お、ノヴァ。こんなところでなにをしているんだ?」


「あれ、アーテルさん。アーテルさんこそどうしたんですか?」


 私が割り当てられている客間に戻ろうとするとアーテルさんと出くわした。

 アーテルさんの体は少しだけど汚れており、どこかに行ってきたのがすぐにわかってしまう。

 一体どこに行ってきたんだろう?


「ああ、俺か。俺はオケストリアムの冒険者ギルドに顔を出してきた。ついでに簡単な依頼を引き受けて帰ってきたところだよ」


「冒険者ギルドですか?」


「大きな街なら必ずあるからな。あまり長いこと依頼を受けていないというのも格好がつかないし、害獣駆除の依頼だが片付けてきたよ」


「へぇ。やっぱり大きな街の冒険者ギルドって依頼内容も変わるものなんですか?」


「かなり変わるな。例えばフルートリオンじゃ滅多に見かけない雑用依頼専用の依頼板があったりする」


「雑用依頼?」


「討伐やら採取やらと違い、街中でのお手伝いを主にした依頼のことだ。荷物の配達とか掃除とかだな」


 そんなことまで冒険者さんは引き受けるんだ。

 あれ?

 でも、どうしてフルートリオンではそういう依頼が出ないんだろう?

 それをアーテルさんに聞いてみると出ることは出るんだが、と前置きして教えてくれた。


「フルートリオンくらいの規模しかないと雑用依頼の数が少ないんだよ。だから専用の掲示板なんて存在しない。それに、貼り出すと見習いどもがすぐに受けてしまうからな。残っていることも少ない。街中ってことは危険が少なく、装備の消耗もあまり気にしなくていいってことだからなぁ」


「なるほど。冒険者さんたちってやっぱり大変です」


 私はお届け物があってもマジックバッグがあるから重量も感じないし、自分で行ってしまう。

 手紙だってそうだ。

 でも、それらを冒険者さんにお願いするって手段もあったんだね。

 私は利用しないと思うけど。


「それで、ノヴァはなにをしていたんだ?」


「私はグラシアノ様から呼び出されてお礼を言われました。そのあと、少し雑談を」


「ふうん。グラシアノは元気になっていたか?」


「はい。とても元気そうでしたよ。手足の筋力が大分落ちたから鍛え直しだ、とは言っていましたけど」


「それは仕方がないさ。そうか、グラシアノは元気になってくれたか」


 アーテルさんはグラシアノ様に特別な思い入れがあるみたい。

 詳しく話を聞くと、アーテルさんが家を出たときにはまだグラシアノ様は生まれていなかったらしい。

 そんな年の離れた弟のことだから余計心配になるそうだ。

 イチニィやニネェ、サンニィが私やシシを心配するのと一緒かな?

 ともかく、アーテルさんからは「屋敷の中を歩く分には護衛もいらないだろう」と言われ、しばらく会っていなかったので少しお話してみよう。

 なにかいいアイディアが浮かんでくるかも。

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