第四章 裏庭を薬草採取の畑にしよう
20. 錬金術士のお仕事ができない!
わたしがスピカさんのお手伝いを始めてから一週間が経過した。
スピカさんのお店ではいろいろな日用雑貨を取り扱っているみたい。
わたしは最初、お金を覚えるのに苦労したけど、文字や数字は読めるからそっちは苦労しなかったな。
でも、問題は……。
「スピカさん! わたし、錬金術のお薬も売りたいです!」
「ダメだって言っているでしょう。本当にノヴァちゃんはしつこいんだから……」
「にゃふぅ……」
そう、スピカさんはお店で錬金術のお薬を売らせてくれないんだ。
いくらお願いしてもずっとダメだとしか言わない。
どうしてなんだろう?
「むぅ……」
「ほら、ノヴァちゃん、機嫌を直しなさい。美味しいドーナツを買ってきてあげるから」
「ドーナツよりもお野菜の方が美味しいです!」
「にゃうにゃ!」
「困ったねぇ。この子たちは本当に野菜と果物ばかり食べるんだから」
ノスピカさんはわたしとシシにいろいろな物を食べさせたいみたいだけど、それもあまり必要性を感じない。
小麦でできたパンは出されれば食べるけど、肉は嫌。
でも、野菜を煮込んだシチューは美味しかった。
「スピカさん、どうして錬金術のお薬を売っちゃダメなんですか?」
「にゃうにゃ?」
何度聞いてもはぐらかされてしまう質問を今日もしてみた。
だけど、スピカさんは今日には今日もはぐらかされてしまう。
「うーん、なんでかしらね。ともかく、錬金術で出来たものを売るわけにはいかないの。勘弁してちょうだい?」
「むぅ……」
「にゃふ」
やっぱり聞いてもダメみたい。
なんでなんだろうなぁ。
と、その時、お店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ!」
「にゃうにゃ!」
「お、ちゃんと店番しているな」
入ってきたのは赤毛の青年。
細身だけどがっしりとした肉体と顔立ちには見覚えがある。
「あれ? 確か……アーテルさん?」
「おう、アーテルさんだ。覚えていてくれたようだな」
「はい。一週間前のことですし、あまり他の人とも会ってませんから」
「あっはっは。そうかそうか。スピカ婆さんは……いるな」
「アーテルかい。よく来たね」
「はい。ご無沙汰しています」
なんだ、スピカさんに用事だったんだ。
買い物じゃないのか。
「アーテル、お父様からの返答は」
「まだありません。というか、冒険者ギルド専用の超特急便を特別に使わせてもらいましたが、まだあちらに連絡が届いたばかりでしょう。その上でどう動くのかは父次第となります」
「ああ、じれったいねぇ。ノヴァちゃんも相当じれているよ」
「ああ、やっぱり。ノヴァも自分の腕前を披露できないんじゃつまらないよな」
ん?
どうしてそこでわたしの話になるんだろう?
わたしに何か関係のある話なのかな。
「あの、アーテルさんのお父さんが何かあったんですか?」
「何かあったというか……まあ、俺の父さんはちょっと偉い人なんだよ。だから、俺の父さんが認めればノヴァの薬もこの街で売れるようになるわけさ」
「えぇ!?」
わたしのお薬を売ることができないのってそんな理由だったの!?
人の世界じゃお薬ひとつ勝手に売ることができないんだ。
初めて知った。
「その様子じゃスピカ婆さんから詳しい説明を受けていなかったようだな」
「はい。初めて聞きました。スピカさんも教えてくれればいいのに」
「ほっほっほ。ノヴァちゃんには難しい話かと思ってねぇ」
むぅ、スピカさんってときどきわたしを子供扱いする!
わたしは一人前の錬金術士だって言っているのに!
「それにしても、アーテルのお父様はどう動くかねぇ。バカな真似をしなければいいんだけど」
「そこは大丈夫でしょう。父さんは十年前の事変にも参加しています。聖獣様を怒らせることの意味は十分に理解しているはずです」
十年前の事変?
一体なにがあったのかな?
「あの、十年前に何かあったんですか?」
「ああ。それは……」
「アーテル、まだこの子には早いよ」
「そうですか? 詳しく知っていても問題ないと思いますよ、スピカ婆さん」
「いまのところは説明なしでもいいでしょう。そんなことより冒険者ギルドの方は大丈夫かい? ヴェノムグリズリーなんて大物が出たあとじゃ相当気が立っているんじゃないのかね?」
「ああ、それは……まあ、ぼちぼちです。俺も含めた上位冒険者が森全体をくまなく探すようにしてようやく安全が確認できました。問題は、はぐれの一匹がどこから出たかだけです」
「そっちも問題だねぇ」
そのままスピカさんとアーテルさんはヴェノムグリズリーという魔物について話あっていた。
猛毒を持った恐ろしい魔物らしいけど、大丈夫なのかな?
わたしのお薬は必要じゃないのかな?
「……とまあ、いまのところは平常運転に戻りつつあります」
「それはいいことだ。この街に来る商人の足が途絶えたらみんなが困ってしまうよ」
「ですよね。しばらく俺たち街付きの上位冒険者は遠出をせず、街近郊で待機ですがそれくらいですよ」
「それくらいは仕方ないさ」
むう、話に割り込めない。
わたしのお薬を売り込むチャンスなのに。
「そう言えば、ノヴァって普段はどうしているんですか?」
来た!
話に割り込むタイミング!
「お店のお手伝いをしています!」
「へぇ。偉いな、ノヴァ」
「だから、お薬も買っていってください!」
「いや、それとこれとは話が違うからなぁ」
ちぇ、残念。
お薬、買っていってほしかったのに。
たくさんあるんだけどな、お薬。
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