21. 錬金術を実際に体験してもらおう

 アーテルさんがやってきてまた一週間が過ぎた。

 わたしのお薬を売っていいっていうお許しはまだ出ないみたい。

 ちょっと残念。

 でも、それならそれで、お薬を売っていいって許可が出たときのためにお薬を作り貯めておこう!


「元気になーれ! ふっふふのっふ~ん♪」


「みゃみゃみゃっみゃみゃ~ん♪」


「よし! 傷薬、完成!」


 今日もわたしの錬金術は絶好調!

 お薬作りだって失敗しないんだから!


「おやおや。今日も朝から錬金術かい?」


「あ、スピカさん。おはようございます!」


「にゃうにゃう!」


「おはよう、ノヴァちゃん、シシちゃん」


 家主のスピカさんが起きてきたことで錬金術は一時中断。

 朝食の時間だ。

 ちなみに朝食はスピカさんが用意してくれる。

 わたしでも出来るって言っているのに「料理は危ないからねぇ」って言ってやらせてくれないの。

 わたしだって一人前なのに。

 食事が終わったらお店の営業準備だ。

 営業準備とは言ってもたいしてやることはなく、店舗の方の窓を開けて換気をするだけ。

 それだけで準備完了。

 わたしの役目はこれから店番することだ。

 店番中は錬金術が使えないからちょっとつまんない。

 はあ、早くお薬を売れるようにならないかなぁ。

 そんなことを考えながら店番をしていると、お店のドアが開き、アーテルさんがやってきた。

 今日はなにか買いにきたのかな?


「いらっしゃいませ、アーテルさん。何かお買い物ですか?」


「ん? ああ、期待させちまったか。すまないがスピカ婆さんを呼んでくれ」


「構いませんけど、何かありました?」


「お前にとってもいい話だ。お前の薬を売り出してもいいか、父さんが直接確認しに来てくれるってさ」


「本当ですか!? すぐに呼んできます!?」


 わたしは店の裏へと文字通り飛んでいき、スピカさんを呼んで戻ってきた。

 アーテルさんはスピカさんにも私の薬の話について伝えてくれている。

 やった!

 これで、お薬販売に向けて一歩前進だ!


「ふむ。公爵様自らがねぇ」


「それだけの大事ですからね、錬金術士の薬っていうのは」


「戦略物資にもなる代物だものねぇ。慎重に見極めが必要か」


「はい。スピカ婆さんはどうお考えですか?」


「あたしはノヴァの売りたいように売らせてあげたいねぇ。アーテルは?」


「俺は……すみませんが大口での販売は控えてもらえるとありがたいです。先ほども言いましたが、戦略物資ですから」


「そこはそうなるねぇ。ノヴァちゃん、あなたはどうしたいのかねぇ?」


 わたし、わたしかぁ……。


「困っていない人にはあまりたくさん売りたくないかな。困っている人に売る分にはいいけど、困っていない人にはいらないですよね、お薬って」


「なるほど。それはわかりやすい基準だねぇ」


「確かに。冒険者からすれば、傷薬と毒消しをいくつか常備させてもらいたいがそれくらいです。ノヴァの基準で売りに出すなら困る人はあまりでないでしょう。この街には神官もいませんからね」


「しんかん?」


「ああ、ノヴァは知らないのか。大きな街には神官って人がいて傷や病気の治療を行ってくれるんだ。……まあ、治療費も馬鹿にならないくらい高いんだが」


 そうなんだ。

 わたしのお薬は草花から作るから安く作れるけれど神官って人たちは大変なんだね。


「さて、今日の話はこれくらいです。スピカ婆さん、何か困っていることはありませんか?」


「困っていることかい? ノヴァちゃんが時間を持て余していることくらいかねぇ」


「まあ、やることもないですし、下手に出歩かれてもまずいですからね」


 あれ、わたしって出歩くのもダメなんだ。

 出歩く必要がないから気にしてなかったけど覚えておこっと。


「アーテル。時間が余っているならノヴァちゃんの遊び相手になってやってくれないかい?」


「その程度でよければ喜んで。ノヴァ、なにかするか?」


「あれ? スピカさん、店番は?」


「たまにはあたしがするよ。ノヴァちゃんは好きなことをしなさい」


 好きなこと、好きなことか……。

 やっぱり錬金術だよね!


「じゃあ、裏で錬金術を使っていていいですか?」


「無理をしない程度なら構わないよ。それじゃ、アーテル。よろしく頼んだよ」


「はい。スピカ婆さん」


 アーテルさんがいたら好きなことをしていいそうなので、家の中で錬金術をすることにした。

 いつも通り、傷薬や毒消し薬、腹痛薬や頭痛薬などを作っているとアーテルさんが興味深げにこちらを見ている。

 どうしたのかな?


「どうかしましたか、アーテルさん」


「ああ、いやな、錬金術ってそんな簡単な技術だったんだなと思って」


「うーん。わたしにとっては簡単な技術なんですけど、他の人には出来ない技術らしいんですよ」


「……そうなのか?」


「試しにアーテルさんがやってみますか?」


「構わないならやらせてくれ」


「はい。傷薬を作ってみましょう。材料はこれです」


 わたしはアーテルさんに場所を譲り、傷薬の素材も手渡した。

 いつもの草花たちである。

 でも、アーテルさんはその草花も興味深げ……ううん、いぶかしげに見ていた。

 何かおかしな事でもあったのだろうか?


「……本当にこれで作るんだよな?」


「そうですよ? さっきからそれで作っていたじゃないですか」


「いや、そうなんだが……これって雑草とその辺に生えている花だよな?」


「失礼ですね。お母さんの巣にある薬草園から採取してきた物です!」


「そうなのか? どう見てもその辺にある草花にしか見えないんだが……」


「そんな事より実際に試してみましょう。ほら、早く」


「あ、ああ。……この虹色の液体もよくわからん」


「それはわたしもよくわかりません。普通の錬金術士は水に何かの薬を混ぜてそれを作るらしいです」


「じゃあ、この鍋は特別製か」


「お母さんがどこかで拾ってきたそうです。どこで拾ってきたのかはわたしも詳しく知りません」


「わからないことだらけだな、お前の錬金術」


 む、なにか失礼な事を言われた気がする。

 でも、わたしの錬金術って確かによくわからないことばかりかも。

 調べた方がいいのかなぁ?


「にゃおう」


「あ、シシ。待たせちゃってごめんね」


「その聖獣様が鍋を温めているのにも意味があるのか?」


「シシが温めないと上手く機能しないんですよ。一定以上の熱さで安定して熱を加え続けなくちゃいけないみたいで」


「ふーん。とりあえず始めるか。どうすればいい?」


「素材を素材が入れてほしい順番通りに入れてかき混ぜれば終わりです」


「……は?」


「だから、素材の言うとおりにすればいいんですって」


 わたしの説明を聞いてアーテルさんは手の中にある草花たちを見つめ、またわたしを見た。

 どうしたのだろう?


「すまん。俺には素材の入れてほしい順番というのがわからない」


「だから言ったじゃないですか。わたしには簡単だけど他の人には出来ないって」


「確かにな。素材と道具さえあれば出来るもんだと軽く考えていたよ、錬金術って物をさ」


 アーテルさんもわかってくれたみたい。

 でも、錬金術士ってやっぱり少ないんだね。

 お母さんが珍しい才能だって言っていたのも当然かも。

 わたし、頑張らなくちゃ。

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