92. ヘレネの処遇
「ふうん。それじゃあ、ヘレネのやつはお前のお母さんに剣を向けて返り討ちにあったってわけか」
「そうなりますね、アーテルさん」
とある日の午後。
アーテルさんがふらりと雑貨店にやってきた。
最近は忙しくしていたみたいだけど、ようやく一区切り仕事の目処がついたんだって。
なにをしているかまでは教えてくれなかったけど、順調ならいいことじゃないかな。
「しっかし、ヘレネもバカだよな。人語を話す獣は、魔獣だとしても相当高位なやつに限られるから、人ひとりで相手が出来るような存在じゃないってのによ」
「そうなんですか?」
「ああ。俺も昔、王都にいた頃、一度だけだが対峙したことがある。あれはひとりで相手をするような生やさしい存在じゃない。魔法が使えるやつも含めた複数人でかかり、重傷者を出しながら仕留められればいい方、って化け物だ」
人語を理解する魔獣ってそんなに危険なんだ。
アーテルさんの話ではその魔獣は王都にひょっこり現れ、草原で草を食べているところを見つかって冒険者の出番となったらしい。
ただ、向こうに争う気はまったくなかったようで、アーテルさんたちがその場に行くと、少し話をしただけで立ち去って行ったそうだ。
王都にやってきたのもたまたまで、目的地に行く途中にこの国の王都があったというだけらしいね。
アーテルさんによると、こういうときは魔獣を討伐するよりも交渉により立ち去ってもらうことが正しいらしく、結果としては大成功だったらしい。
王都は魔獣が出たということで大騒ぎになったそうだけどね。
魔獣って普通の魔物とは比べものにならないくらい強いそうだ。
もっとも、私の魔導銃があれば大差ないとも言われたけど。
失礼しちゃうな。
「で、ヘレネはどうするつもりだ? 傷が治ったあともこのまま置いておくつもりか?」
「どうしましょうか? さすがにお母さんに剣を向けたのはちょっと」
私に対して暴言を吐くだけならともかく、お母さんにまで剣を向けたのは許せないかな。
怪我をさせることが出来ないとわかっていても、心情的なものはあるし。
そんな私のことをアーテルさんは軽く笑いながら話を続ける。
「まあ、そこはお前が決めろ。この店はお前のものだからな。アストリートも含め、残りは全員居候、蹴り出すのはお前の自由だ。アストリートの護衛がいなくなるのは困りものだが、護衛に問題があったんだから仕方がない。アストリートもさっさと父さんに連絡して別の護衛を出してもらうべきだろうな」
「他人事だと思って。でも、アストリートさんは護衛を変えるべきですかね?」
「少なくともいまはヘレネが何もできない状態なんだろう? それなら代わりの護衛は送ってもらうべきだし、自分からケンカを売る護衛なんて護衛失格だ。騎士としても他人ともめごとを起こすだけで三流と言える。そんなやつが護衛だなんてアストリート個人の能力も問われる事態になるな」
うーん、そうなっちゃうのか。
でも、それくらいのこと、公爵様だったらわかっているはずだよね。
それでも、アストリートさんの護衛としてよこした理由って一体?
「まあ、父さんの考えも大体読めた。ヘレネのような跳ね返りをどう扱うか、見極めるつもりだろう」
「見極める、ですか?」
「ああ。自分の格が問われるからといって送り返すもよし、しつけて言うことを聞かせるもよしだ。ただ、手を余らせているようでは落第と判断されるだろうな」
「それ、アストリートさんにも教えてあげた方がいいんじゃないですか?」
「俺が教えたら意味がないだろう。あ、お前も教えるなよ。アストリート自信が気付かなくちゃいけないことだからな」
「はーい」
うーん、やっぱり貴族の生き方って大変だし窮屈そう。
でも、これが人の上に立つっていうことなのかな。
人を使うのも難しいね。
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