第一章 公爵様からの緊急呼び出し
52. 領都オケストリアムへ
私たちを乗せた馬車は、昼間最低限の休憩だけ取って走り続け、夜は護衛の兵士たちが交代で見張りをしながら眠るという強行軍を行っていた。
どうやら、領都からフルートリオンに来たときも同じことをしていたらしいね。
結構無茶をするなぁ。
「大丈夫なんですか、ナーヒさん。こんな無茶をして」
「なに、軍の人間は鍛えていますからね。多少の無茶はききますよ」
「それならいいんですが」
そう答えるナーヒさんの顔色もちょっと悪い。
かなり疲れがたまっているんじゃないかな?
私とアーテルさん、それからナーヒさんが乗っている箱馬車は高級車みたいだけど、それについてきている兵士さんの乗る幌馬車はものすごく揺れている。
車軸が折れそうになったこともあるみたいだし、かなり大変そうだ。
でも、それだけ大切な人が病気にかかっているってことだよね。
私も気を引き締めよう。
「ナーヒ様! 前方に魔物の姿があります! 種別はわかりませんが馬形の魔物です!」
私たちの馬車の馭者をしている兵士さんから注意が入る。
魔物と遭遇するのもかなり頻繁なんだよね。
馬を狙ってくる魔物もいれば、道を塞いで私たち全員を襲おうとする魔物もいる。
二年前にフルートリオンを襲った妖魔だって襲いかかってきた。
妖魔は兵士さんたちが倒してくれたけど、やっぱり人型で連携を取る分、普通の魔物より知恵が回るそうだ。
あと、上位種になると人間並みの知能を備えた上に魔法まで使うらしい。
そんな個体が現れると大変だから、冒険者さんたちには定期的に妖魔の討伐依頼が出ているんだって。
フルートリオンの街が襲われたのは、人里から大分離れた場所で群れをなした妖魔が一気に攻め込んできた結果だという調査結果が出ていた。
お母さんたちがその妖魔の集落まで行って念入りに焼いたらしいけど、油断しちゃダメなんだね。
フルートリオンにも以前より頻繁に妖魔討伐の依頼が来るようになったらしいし、二年前のような被害が出ないといいな。
「またか。春になって魔物も活発化しているな」
「ナーヒさん、私とシシで追い払いますか?」
「申し訳ないがそうしていただけますか? 戦うには時間がかかりすぎる」
「はい。行くよ、シシ」
「にゃうにゃ!」
私とシシは馬車の扉を半開きにして進行方向に向かい少しだけ身を乗り出す。
すると、確かに馬型の魔物が道を塞ぐようにたむろしていた。
一体なにをやっているのかわからないけど、邪魔なので退いてもらおう!
「シシ!」
「にゃうん!」
私は魔導銃で、シシは魔法であちらの魔物の目の前に落ちるように攻撃を行う。
すると、それに驚いた魔物が一斉にこちらを向き、突進の構えを取った。
逃げてくれれば助かったんだけどなぁ。
「シシ、もう一回!」
「にゃ!」
再度、魔導銃と魔法による攻撃を行う。
今度は手前に落とさず、前方にいる魔物たちめがけて攻撃した。
今回の攻撃は最前列付近にいた魔物たちをすべて灰にして消え去る。
それに怯えをなしたのか、残りの魔物たちはちりぢりに逃げていった。
ばっちり成功だね!
「ナーヒさん、進路上の魔物を倒しました」
「私の方でも確認しました。やはり、その魔導銃という古代兵器の力は恐ろしい」
「うーん。これって遠くに飛ばしたり、魔力の効率をよくしたりするためのものでしかないんですよ。魔法の威力はあまり上がりません」
「それでもタネを知らなければ恐ろしい代物です。決して盗まれないようにしてください」
「はい。盗まれても私以外に使えないようになっていますが」
原理はよくわからないけど、お母さんはこの魔導銃を私専用に改造してもらってから持って来たらしいね。
試しに冒険者の魔術師さんに使ってもらったけど、本当に魔法は出なかったから私専用なのは間違いないみたいだ。
でも、どうやっているのかな?
このマジックバッグだって、私とシシしか使えないみたいだし。
聖獣の世界って人の世界からすると不思議が多い。
四年も人の世界で暮らしていたら、お母さんたちと暮らしていた頃は当たり前だったことが当たり前じゃなかったってことがよくわかるもの。
「ナーヒ様、先ほど魔物たちがたむろしていた場所で人が手を振っています」
「なに? アンデッドか?」
「遠目では大きな傷は見当たりませんがいかがしましょう?」
「アンデッドでない場合は放置もできん。離れた場所で馬を止め、慎重に対応せよ」
「はっ、了解しました」
ナーヒさんの指示通り兵士さんたちが行動した結果、その人は馬車で旅をしていた行商人だったようだ。
ただ、この場所でさっきの魔物の群れに襲われ、馬車を壊され馬も食べられてしまったらしい。
この行商人さんだけは馬車を壊されたはずみで岩の裏まで飛ばされ、そのまま隠れることができたため難を逃れることができたそうだ。
ただ、積み荷だった食料類も全部食べられてしまい、残された商品はわずかばかりの宝石らしいんだけどね。
「さて、どうしたものか。一般市民であることがわかった以上、ここに放置していくわけにもいくまい。だが、私たちも急ぎの旅だ。近くの宿場町までなら送ってやれるが、それで構わないか?」
「ありがとうございます、騎士様。それでなんとかやり直してみせます」
その商人さんは兵士さんたちが乗る馬車へと乗っていくこととなった。
そして、次の宿場町に着いたとき降りてもらったが、持っている宝石を見せてもらうと珍しい色をした宝石だったので買わせてもらっちゃった。
商人さんが提示してきた金額よりも高値で買い取ったから別にいいよね?
思いがけない掘り出し物もあったけれど、その後も私たちは馬車を飛ばし領都へと向かう。
兵士さんにはときどき元気になるお茶を配ったりしていたけど本当にタフだったね。
私も見倣うべきなのかな?
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