第111話 「父の胸の内で」

「さぁ!これから我々アブラハ一族はどのような歩みをすべきなのか!夢見の予言者であり、我々の長子とも言える立場となった我が娘セツラよ!どうか一族に道を示して欲しい!」


「父上!私は小さき器に過ぎません…ただ神の憐れみの所以に選ばれて建てられたに過ぎないのですから…

しかしこの未曾有の大危機は、あと数年続きます!このままカナンの地で留まっていたら、アブラハ一族は飢えで全人民が死に絶え、崩壊してしまうでしょう!

一族が滅びる事を起源の主はお望みになっておられません。いやまさに我々アブラハ一族が命を得て、大いなる祝福を得る為に、私は先んじて遣わされたのです!どうかこのセツラ王国を自分の国だと思い、この地で糧を得てください!この国の最も良き産物は父上!あなたとその子供達の物です!」


「何と…これ程の祝福を、失った存在であったセツラから得られようとは、誰が想像出来たであろうか!

起源の主の御名を褒め称えます!


我が娘セツラよ!

もはや私に思い残すことは何もない!もう充分な祝福を得られたのだから!明日死んだとして悔いる事はないだろう!」


「父上!そのような事をおっしゃやらないでください!

私は父とこれからも共に生きてゆきたい!しばし父上の胸の内で長年の渇きを充したいのです!この幸福の時間が永遠に続きますように!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る