第8話 「侍従長妻アダの夢」

その晩、侍従長の妻アダは夢を見た



<あなたは、これまで欲望を抑えきれず・・数多くの家人達を誘惑したその罪は重い・・そして今回夫ポティファルの執事セツラ・・あの者は『幸運なる者』である。

セツラが主人の財産を管理してから、どれ程の幸運が、あなたの家に舞い込んできたか?あなたは知っているか?


侍従長の妻アダは、夢の中で自身に語られる声に聞き入っていた・・


「あなたは誰ですか?

何故私にこのような言葉をかけられるのですか?」


「我はセツラの一族を守る守護者である!

セツラは、夢を司る一族であり、特別な力がある事を・・軽んじた故に

ポティファルの家に与えられた「幸運」は取り去られるであろう・


侍従長の妻アダよ!

あなたは自分の身が招いた悪しき行いの・裁きを受ける日は近い・・


侍従長の妻アダの視界は閉ざされ・・幻想的な場面が現われた



<輝かしい太陽が照り・・実りが豊かで

手を伸ばし、捥ぎると甘酸っぱい果実は

人々の憧れの的であった・・・しかし

果樹園の管理者の妻は、果実への関心に思いを寄せず

放置し、管理を怠った為、収穫の秋に、手にすべきであった豊かな果実は、手に入れられなかった。その後、果実の『本当の価値』を知る事になるが、後の祭りである。


失った果実は、二度と手に入らないばかりか、自ら行った悪事が明るみに出て、隠しようのない恥じらいに、身を隠しても、一生恥と恥が追ってくるであろう・・>



翌朝、侍従長の妻アダは冷や汗が止まらず。自分がいかに愚かな行為をした事か・・セツラの顔が浮かんではいたが、彼にいつか謝罪する日が近い事を知る由もない・


傲慢な女アダは、夢の中の悟りを経験したが、なお自分の愚かさに・・まだ気づいてはいない。愚か者は愚か者なのである・・・。

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