022 闇雲
激しく重なり合う互いの得物。
打ち合うたびに斬風が舞い、引き寄せられたゾンビが微塵と砕け散る。
亡者の怨嗟がごとく轟く黒剣を紙一重で受け流し、返礼とばかりに薙ぐ大鎌は真上へ弾かれた。
両者一歩も譲らない——?
否、押されているのは明らかに俺の方だった。
「く……っ」
「息が荒いぞ。もはやついて来られないのか?」
「っ、ペラペラと……よく喋りやがるッ」
鍔迫り合いを押し退けて、前へ踏み込む。——しかし、まただ。
苦虫を噛み潰したように、顔が歪む。
——何をビビってる?
さらに一歩、ヤツの懐に潜り込むことを恐れている。
全身の総毛を逆立たせながら、明確な死に踏み込むことを恐れている。
身を斬らせれば、相手に致命傷を与えられる道筋が見えているのに。
「ビビったな」
冷ややかな声と共に、煌めく魔力。
弾かれた刃を引き戻すよりも早く、漆黒の闇を煌めかせた魔剣の切先がこちらを向く。
「……!!」
「
轟音を撒き散らす破壊の
「あ———が」
ユズキの砲撃よりも凄まじい威力を孕んだそれをまともに受け、皮膚を貫通し肉が削げ焼ける音を耳にしながら——頬が釣り上がった。
明滅する意識。半ば飛びかけながらも真っ向から死の闇を受け止める。
地面を抉りながら数十メートル後方に追いやられ、それでも倒れず、崩れ落ちそうになる骨肉を奮い立たせた。
ここで終わるな。
終わらせるんじゃねえ!
俺の夢は、まだ醒めねえ!!
「……どういうことだ?」
薄れていく闇。魔力と共に消失した闇雲の向こうで、黒騎士が不気味だと言わんばかりに声を漏らした。
「致命傷で済むはずがない。防いだわけでも受け流したわけでもなく、また飲み込んだわけでもない。まともに喰らって生きているなんて……おい、おまえ。一体どういう頑丈さだ?」
「……は、っ、ハ」
ジュッと熱を孕む肉体の内側で、何かが蠢く感覚。
スキル『常在戦場』が、戦闘を続行させるために俺の肉体を癒していた。
いや……どちらかというと作り替えている、に近い感覚だった。
《スキル『魔法耐性』を獲得しました。これより、魔法攻撃に対して受けるダメージが僅かに減少します》
初めての耐性スキルを手に入れたようだが、熟練度を上げるためのスキルポイントを手に入れられない俺からすると気休め程度の品物だ。
全身を駆け巡る激痛に引き攣りそうな顔を振り払って、俺は黒騎士を
「おい……名乗れよ」
「ほう」
「これからぶっ倒すヤツの名を知らずに、手柄を自慢できるかよ」
「頑丈さと、その気概だけは認めてやる。これだけの実力差をまざまざと見せつけられてなお屈しない精神は実に尊いモノだが、ああ、人間種というだけで殺意が湧く」
胎動するヤツの魔剣。周囲の分散した魔力を吸い上げて、再び魔剣の刃に
「人間に名乗るなど馬鹿馬鹿しいが、いいだろう。特別だ、名乗ってやるから嬉し涙ながせよ
より一層激しさを増す闇の輝き。膨れ上がる魔圧は先の比ではなく、故にその火力は火を見るよりも明らかだった。
自ずと飲み込んだ唾。呼吸が止まってしまうかのような心臓の激しい鳴動に、しかし俺は逃げることなく大鎌を構える。
「我が名はエミネミ——主君たる第二位魔王ディアリス様率いる直轄騎士部隊アルマ・ラーマが二番隊隊長。そして」
集中しろ。
喰らうのは初めてじゃない。
二度もまともに受けたんだ。視えているはずだろう。
「見よ、この煌めきを! 我が魔剣の織りなすこの光こそ、
息を吸って、止める。
瞬きをやめて、熱を消す。
深く、深く、深く覗き込め。
勝機は一瞬。
勝ちを確信して放つ相手の
「
「———」
極限まで高められ、収束された魔力がはちきれんばかりに胎動する。
引き絞られた弓矢のごとく解放を待ち侘びる
「
溢れ、流転する最悪の光が、振り下ろされた斬撃と共に放たれた。
——その刹那。
「■■■■■———ッッ!!!」
「「———!?」」
空より、流星がごとく紅の巨体が舞い降りた。次いで振り抜かれる逆袈裟の暴圧が、今まさに振り下ろされんとする魔剣ごとエミネミを打ち抜いた。
「な……ッ!?」
その突然の乱入に、俺は高めていた集中を掻き消され。
「おまえ……!」
「■■……」
フシュウと、息を吐き丸太を肩に担ぐ赤い影——二週間前、死の淵を共に駆け巡った好敵手オーガが、そこにいた。
「どうしてここに……ってか、邪魔してんじゃねえぞてめえ!!」
「■■■ッ」
俺の怒声に対抗するように新調したであろう丸太をこちらに擬すオーガ。
「はっ、あの時の再戦ってか? いいぜ上等だ。付き合ってやる——って言いたいところだが」
タイミングが悪い。横目でアモンのおっちゃんを見遣る。
エミネミの魔剣による風圧で地面を転がっていたおっちゃんは、生きているのか死んでいるのかわからない。
急がなくては。どちらにせよ。
「今はまだその時じゃ——」
「■■■ッ!!」
「チッ、そうだよなあ! おまえはそういうタイプだよなあチクショウッ!!」
こっちの事情などお構いなしに突っ込んでくるオーガ。
焦燥感に身を焦がしながら、俺は大鎌を構えた。
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