第40話 ヒロインちゃん疑う フェリシア視点
「おかしいわ」
もう少しで建国祭だって言うのに未だフローズン卿にも、モフモフの聖獣とのイベントも起きてはいない。
百歩譲って自力でもふもふの聖獣に会えたとしても、建国祭が終わればフローズン卿は領地に帰ってしまう。
『薔薇の乙女に花冠を』で隠れキャラであり私の最推し様。なんとか領地に帰る前に会っておきたい。
「フェリシア、何をそんなに難しい顔をしているんだ? どんな顔も可愛いけどな」
王宮の来賓室にノックもなしに入って来る人物は一人しか知らない。
声の主に顔を向けると、ニヤけたサージェが花束を抱えて立っていた。
チッ、またお金のかかっていない
どうせくれるなら、宝物庫にある宝石をかすめて来るくらいして欲しい。それができないなら、せめて王室御用達の商人を連れてきなさいよ。
役立たずが。
と思ったが私はとびきりの笑顔で花束を受け取った。
「まあ、素敵なお花をありがとうございます」
そもそも、こいつがこんなアンポンタンだから皇太子にもなれず、私が婚約者になる話も一向に進まないんだ。
いや、それだけじゃない。
全員の攻略を試みたけど結局、商人の息子も若き天才魔術師も攻略する時間が足りなかった。
マーシャル男爵の事業の方もうまく進んでいないみたいだし、このまま聖女覚醒に時間がかかれば本当の父親に見限られるかも知れない。
本当のお父様。
実は私はマクサ侯爵の婚外子なのだ。当時メイドだった母がお手付きになったが、僅かなお金を渡され屋敷を追い出された。
のちにマーシャル男爵の後妻になる。
見た目の良さから私は養女になることを許された。いわゆる家の為、どこかに嫁に出すために。
前世の記憶はマーシャル男爵本妻の娘に池に突き落とされた時に思い出した。
「私、ヒロインじゃん」
人生の成功が約束されてる。
ハハハ。
笑いが止まらない。
何もしなくても私が選んだ人間との結婚が手に入る。
その考えは間違っていなかった。
教会で聖女かもしれないと神官が言った途端、マクサ侯爵が接触してきた。
「聖女ならいずれ身分の高い貴族との婚姻も可能だ。その時は私が後ろ盾になろう」
クソが!
虫唾が走ったが、手を組むことにした。
ここは身分が全ての世界。
揺るぎない権力を手にするまで賢く立ち回り、最後に見限るのは私の方だ。
「国境近くの疫病はどうなりました?」
呑気に足を組みお茶をすするサージェに声をかける。
最近の悪い噂を払拭するように、国王が出した課題だ。
そんなこと私にでもわかるのに「カイルに任せたからなんとかなるだろう」とサージェは全く関心がないように聞き流した。
もしかしてこいつは馬鹿なの?
何もしなくてもハッピーエンドを迎えると思っていたけど、雲行きが怪しい。
私が転生者だからシナリオに影響を及ぼしているのかもしれないとは思っていたけど……この世界のサージェは明らかにレベルが低い。
違う攻略対象に乗り換えるか?
いや、サージェが自滅しない限り無理。
やっぱりこの国が飢饉や疫病を乗り切れない場合に備えて国を捨てる準備は必要ね。
そのためマクサ侯爵と協力して資金を溜め込んでいるだし。
ただ王妃の座も捨てきれないからサージェとの関係もしばらくは維持しないと。
まずは建国祭よね。
「サージェ様。建国祭用にドレスをお揃いで作りたいのですが、一緒に選んでもらえますか?」
いつもならこう切り出せばすぐに王室の衣装係を呼んでくれるのに、今日はなぜかちょっと首を傾げて私を見た。
「まさか、もう私のドレスは注文してくださったのですか?」
サージェのくせに仕事が早いじゃない。
でも、今回は正式な王族主催のパーティなのでいつもより豪華で目立つようなドレスにしたかったのに。
「残念だけど、建国際のパーティーにはフェリシアは参加できないんだ」
はぁ?
どう言うこと!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます