第30話 フローズン卿登場


「ふせろ」

 叫び声が聞こえた途端、咄嗟にロダンが私とクレイド、いちごを抱きかかえて地面に伏せた。

 背後にいた熊よりも大きな魔物が真っ二つに切れて、目の前にドッサっと積み重なる。


 ひぃぃぃ。

 キモ。


 話に夢中で全然、気づかなかったよ。

 っていうか今のどう見ても上から降ってきたよね。

 あれはいくらロダンが優秀でも防ぎようがない。


 ロダンに抱え込まれながら、叫び声をあげた人物を見ると、そこにはフローズン卿が剣を握りしめて、私たちを睨んでいた。


 後にはジルバがおとなしく座っている。こんなところで姿を現していいの?

 また目撃されて噂になっちゃうよ。


「ありがとうございました。助かりました。でもどうしてこのような魔物が?」

 ロダンは私を立ちあがらせるとフローズン卿にお礼をする。


「こんなところに子供を連れてきて、警備をおこたるとは。もしも私がいなければ、あなた達はこいつに食われていたぞ」

 まあ、それはないけれど、確かに護衛としてのロダンは責められても仕方ない。


 でもねぇ。

 今、ちょっと彼、私といちごの話聞いて放心状態だったから……。


「申し訳ありません」

 歯を喰いしばりロダンは、フローズン卿のお叱りを黙って聞いている。

 さっきは自分の腕を犠牲にしてまで救ってくれようとしてくれたし、ちょっとかわいそうなので間に入ってとりなしてあげることにする。


「フローズン卿。ありがとうございます」

 ようやっとフローズン卿は眉を上げたまま、私たちに視線を移した。

 ちょっと、怖すぎなんですけど。


「殿下、このような場所で護衛もつけずにどうなされたのですか? ここは狩場じゃありません。大型の獣が出る可能性があるから禁猟区になっいるのです。ましてやご令嬢まで連れてのこのこ散歩に来ていい場所じゃありません」

 相当怒っているのか、クレイドと私にもお説教を始める気らしい。

 まあ、助けてもらったのは確かだけど、そんなに怒らなくたっていいじゃない。


「あの……ただならぬ気配を感じて確認しに来ました」

 うそだけど。


「何かを見つけたのなら、大人に報告するものです。ましてやあなた達は王族と公爵令嬢なんですよ。いくらでも護衛騎士がいたでしょう?」

「通常ならそうしていますが、今回は私しか見つけられないものでしたので」

「それですか」

 フローズン卿は、私の腕の中でゴロゴロしているいちごを睨みつける。


「まさか、魔物?」

「聖獣です。魔物用の罠に挟まっているところを見つけました」

「多少、魔力を感じるがこんなちびが聖獣?」

 ピクリとも動かない眉は、ありえないとでも言いたげだ。


「とっても可愛らしいでしょ」

 そこで今まで黙っていたいちごがヒョイと顔を上げ、フローズン卿に向かって「お主がジルバの契約主か?」と横柄に聞いた。


 フローズン卿はいちごがしゃべったのが予想外だったらしく、目を見開いて驚いている。

 一般的に聖獣が人間の言葉を話すなんて聞いたことが無いし、人型をしている妖精ですら会話したことがある人間は稀だ。

 まあ、驚くのも無理はないでしょうね。


「ジルバを知っているのか?」

「当然じゃ。こいつはわしの弟子だからな」

 弟子!

 ジルバがいちごの弟子!

 そう叫びたくなるのを我慢して、私は平静を装った。

 彼には、頼みたいことがいっぱいあるのだ。馬鹿にされるのではなく、少しでも優位な立場でいたい。


「聖獣同士で師弟関係が存在するのか?」

 ナイス突込みです、フローズン卿。

 それは興味深い。




「こいつが生まれたとき、ちょうど側にいたから世話をしてやったんじゃ」

 それっていったいどれくらい前の話なのよ。


「ジルバもお前みたいに話せるようになるのか?」

 あ、それ聞きたい。


に答える義理はないんじゃが、ローズも聞きたそうじゃから教えてやる。普通の聖獣や精霊では人間と話せん。まあ、精霊王くらいになれば可能かもしれんが面倒じゃしな。わしがしゃべれるのはローズが自身の魔力を流し込んだからじゃ」

「そうなの?」

 まあ、さっき何の気なしにいろいろとやっちゃってたのか。



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