第31話 因果応報
「じゃあ、ジルバに私の魔力を流せば話せるようになるのか?」
「いいや、お主じゃ無理じゃな」
その言葉を聞いて、フローズン卿はがっくりと肩を落とすと、振り返ってジルバの首を手で撫でた。
さっきまでの冷徹人間っぷりが嘘のよう。
そんなにジルバとおしゃべりしたかったんだ。
可愛いとこもあるじゃん。
「じゃがローズならできるじゃろ」
「え? 契約獣じゃなくてもいいの?」
「むろんじゃ」
でもそれって、ジルバも私に従属しちゃうってことじゃないの?
私の意図が伝わったのか、いちごがフフンと鼻で笑う。
「大丈夫じゃ、誰に従属してようとジルバとフローズン卿との契約に問題はない」
私にだけ聞こえるようにいちごが言うけど本当かな?
あとでフローズン卿と揉めたくないんだけど。
「頼む、ジルバに君の魔力を流し込んでくれ」
フローズン卿は、勢いよく私に頭を下げる。
あら?
これって、この前と逆じゃない?
思わぬチャンスに私はフローズン卿の綺麗なつむじをみながら、笑いがこみ上げてきた。
まあ、従属のことはバレた時に考えよう。
「いいですけど、条件があります」
「ほんとか! ありがたい。幼い時からジルバと話せるようになればと思っていたんだ」
凄い喜んでますが、条件があるって私の言葉が聞こえてますか?
しかもこの前、けんもほろろに私のお願いを断ったことはきれいさっぱり忘れているらしい。
「じゃあ頼む」
上機嫌に満面の笑みで私に笑いかける姿は、子供のようにはしゃいでいる。
「先にお願いがすんでからです」
「ん? ああ、金竜を探して欲しいんだったな。わかった。誠心誠意探そう」
「それはもういいんです」
私はフローズン卿の目の前にいちごの両脇と
びよーんとだらしなく伸びた胴体に、しっぽがゆらゆらと揺れる姿は、なんとも人を小ばかにしている。
「いちごがいれば金竜も手なずけられるだろうし、ジルバもきっと金竜探しを手伝ってくれると思います」
ニヤリ。
自分でも意地悪だなぁと思う笑みを浮かべて、フローズン卿を見上げた。
「じゃあ何を……」
「フローズン卿には、クレイドを領地に連れ帰り保護っていうか、鍛えて欲しいんです」
「それは……」
まあ、即答できないよね。
国王にも王妃にも
きっと辺境伯の息子であるフローズン卿ならその理由も知っているだろう。
「わかった」
考えたのは、ほんの数秒。
そんなにあっさりと返事をしていいのか?
「え? いいんですか?」
「ああ、殿下を領地に連れ帰り、金竜を探すのを手伝おう。ただし、これは君に言われたからじゃない」
✳︎
「以前から国王に、クレイド殿下を辺境で預かり鍛えて欲しいと頼まれていたんだ」
国王から?
なんだかとっても嫌な予感がする。
フローズン卿の苦虫を潰した顔をみてもろくな理由じゃなさそうだ。
クレイドもそう感じたのか、押し黙っている。
「名目は、王宮では暗殺者が多いし第2側室マルララ様が亡くなってから、後宮に閉じこもってばかりで、環境を変えた方がいいという配慮だが、魔物討伐や辺境戦にも参加させても構わないという言葉からもどういう意図かは明白だな」
「それって、王宮での暗殺がうまくいかないから、辺境で戦死させろってこと?」
「そこまでは言ってない。だがそうなっても責任は問わないと一筆書くと父が言われてきたそうだ」
「ひどい! もうそれ言ったも同然ですよね」
悔しい!
私は怒りのあまり、ギューッといちごを抱きしめる手に力を込めた。
「ローズ、やめろ。苦しい。お前の力で締め上げたら死んじまうんじゃ」
みればいちごは身体が金色に光っている。
どうやら知らず知らず魔力を使い締め上げてしまったらしい。それに耐えきれずいちごも魔力で対抗していたようだ。
なるほど、光魔法より私の方がチートかも。
締め上げていた手を緩めると、いちごが拗ねたようにしっぽでペシペシ仕返しして来る。
「ごめんねいちご。国王がそんなに腐った人間だなんて思わなくて。まさか国王の言葉に従う気じゃないですよね」
私は無言で手を握りしめているクレイドを見た。
自分ではそうだろうと思っていても、他人から事実を突きつけられるとは別だ。
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