第34話 ヒロインちゃんは怒りモードです フェリシア視点
「フェリシア、まだ探すのか?」
「もちろんです。もっと護衛を動員して魔物の罠を探してくださいな」
本当はもう少し後のイベントなんだけど、サージェ殿下が初めて主催する狐狩りの下見の日、魔獣に襲われたところをフローズン卿に助けてもらう。
フローズン卿は滅多に王都には出現しない隠しキャラだ。となればやっぱりイベントは今日である可能性が高い。
何を隠そうフローズン卿こそ私の推しでもある。
端正な横顔、無口なのに攻略すると口調が砕けて甘い言葉を囁いてくれるのだ。
「俺が絶対に守るから」と、めったに笑わない貴重なデレな笑顔を見るために、何度もゲームをやり直した。
この出会いイベントをクリアすればかなりの好感度を得られるはず。
ああ、やっと会える。
そう思えば、少しくらい日に焼けるのも我慢できた。
「殿下、フローズン卿はまだ来ないんですか?」
「さあ、彼の馬に追いつけるものはいないからな」
なんとも、頼りない返事に後ろからどついてやりたくなる。
小さい時から、蝶よ花よと育てられたサージェは顔こそ超絶美しいが、魔力量はそこそこあるのに扱いきれてないし、性格はわがままで自分勝手。正義感もないし話を聞くかぎり政治的能力もない。
平民が貧しいのは全然かまわないが、ゲームで起きる疫病や飢饉対策なんて考えたこともないだろう。
以前、「税収が減ったら国にたくわえがあるか」聞いたら「貴族からの徴収分を増やせばいい」とか簡単に言っていた。その貴族に税金をおさめているのが平民なのにそれを全くわかっていない。
何かあればたちまち税収がなくなって贅沢なんてしてる余裕がなくなるし、国民の不満が募れば、クーデターが起きてゲームのバッドエンドじゃない。
何としても光魔法を手にして、いざという時はこの国を捨てて他の国で聖女にならなくちゃ。
✳︎
「おかしい。こんなに探してもどの罠にもかかっていないなんて、イベントは今日じゃなかったってこと?」
結局途中から罠を仕掛けた兵士を呼び出し、一つ一つチェックさせているのに、モフモフの聖獣はどれにもかかった形跡がないなんて。
「フェリシア、もうそろそろ狩りが終わる。戻って閉会式に出ないと」
「無理です。こんな格好で閉会式になんか出られません」
すぐ見つかると思って、ドレスできたのだ。
さんざん森の中を歩きまわって、ブーツもドレスも土だらけ。
「だが、閉会式にはフローズン卿も出るんじゃないか」
なるほど、そこで捕まえてもう一度一緒に聖獣を探せばいいんだ。
「流石です。サージェ様。そうと決まれば急ぎましょう」
着替えもせずに、閉会式に出席したのに、フローズン卿は急用とかで帰った後だった。
「なんでなの?」
やっぱりここは小説の方の世界?
まあいいわ。
どっちでも私がヒロインだもの。こっちから動かなくても、聖獣の方から現れるわよね。
今回もフローズン卿に会えなかった。
前回、春バラ茶会でもニアミスで会えなかったのよね。
さすが隠れキャラ。
難易度高いわぁ。
それにしてもこいつ、ほんと役立たずだったわ。
私はサージェに擦り寄って聞いてみた。
「殿下。今日の約束は大丈夫ですか?」
「もちろんだ。私にかかれば狐など容易だ」
ドヤ顔で胸を張るが、どの口が言うんだよ。
ずっとテントにいて午後からは私と一緒に聖獣探ししてただろう?
どうせ護衛に狩をさせたんだろうけど、自分の女のプレゼントも調達できないなんて、それで好きになってもらえると思ってるの?
このスカポンたんが。
「素敵です。殿下。私楽しみに待ってますね。毛皮のコート」
「ああ、期待してるといい」
「はい。みんな殿下の腕前に驚くと思います。王都ではこれからの流行は殿下から始まることでしょう」
「当然だな。それも着る人間が美しいからだ」
「もう、サージェ様ったら。照れちゃいます」
半分バカらしいが、私はサージェのご機嫌を取り、腕を回して大きい胸を押しつけておいた。
とたん、鼻の下が伸びる。
はぁ。めんどい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます