第35話 狼好き
「いちごには姿を消すように言ったんだけど、何でお兄様には見えるんでしょう?」
「ローズとそいつは家族じゃろ?」
うとうとし始めていたいちごの顔を覗き込むと、めんどくさそうに説明してくれる。
「同じ血の匂いがする。なおかつローズのことを気にかけておる存在に認識疎外するのは面倒なんじゃ。こいつはちょっとの違和感も追及するタイプのようじゃからな」
よくわからない理由で兄様には見えるってことね。
「それは光栄だね。しかも、言葉がわかるだけじゃなくてしゃべれるんだ」
驚くというより、兄様は呆れているようだった。
それから何を思ったのか、サイドテーブルに置かれている花瓶から
「もう少し具体的に君が見えそうな人間とは?」
「基本的に意識して探されていない限り見えないが、普段から精霊に親しい人間やローズに近い人間には見えるかもな」
いちごは早口でしゃべると、兄様のいたずらに気を取れれて首を左右に振って、赤いトゲトゲの花を目で追った。
「じゃあ何でお兄様に見えるのよ……あ」
しまった。声に出てた?
「ローズ」
花を揺らす手が止まり、めちゃめちゃ低い声が返ってくる。
背筋に冷たいものが流れるのと、いちごがトゲトゲの花を両手で捕まえるのとが同時だった。
「あははははは……こいつは猫と一緒だな」
兄様は、おなかを抱えて爆笑している。
気に入っていただけて何よりですが、猫じゃないですから。
「こら、いちごもそんなの放っておきなさい」
新たに両手に花を持ち、悪戯を続ける兄様を見ていちごに注意するも。二人して私の言葉は聞こえていないようだ。
「お兄様。ないしょにしたかったんじゃなくて、森に行った事がバレると怒られるなぁと思っただけで。ちゃんと紹介するつもりだったから」
「わかった。念のために聞くけど、君はフェリシアという女を知っている?」
「知らんな」
トゲトゲの花をガシガシかじっているいちごが答えた。
「こう、いい匂いにつられたとか。魂にひかれて契約しようと思ってふらふら森に来たとか」
「ないな」
もしかして、ヒロインちゃんは魅了の魔法を使うかもしれないので注意が必要だ。
「そうか。じゃあ今度教えるからそいつらからローズを守ってほしい」
「当然じゃ」
兄様はいちごの答えに満足したのか、私とクレイドをテーブルに手招きすると、紅茶を淹れてくれた。
そうだ。喉が渇いてたんだった。
*
「忘れてた」
いちごのことですっかり動揺していたけど、もう一つ大事な報告があったのだ。
「森でフローズン卿が私たちを助けてくれたんです」
「そういえばフェリシア嬢もフローズン卿を探していたな。いちごと関係があるのか?」
「大ありでした!」
私は今日の収穫を早く話したくて大声で叫んでしまった。
「なんと、フェリシアは私と同じ転生者です」
兄様の眉がわずかに上がった。
「それは確かか?」
「間違いないわ。そもそも、私が森にいちごを探しに行ったのも、フェリシア様がとてもかわいいものを手に入れると教えてくれたからなの」
それから私は兄様に、フェリシアが第二王子と第三王子とは婚約してはいけないが、第五王子との婚約なら影響はないと言われたことも話した。
あきらかに、この世界のことを知っている。ただ、それが私と違いゲームの世界だと思っていて、どうやらそれは当たりらしい。
「ち、ちょっと待ってくれ、話が全然見えないんだが……」
今まで話の隙に入るきっかけを探していたのかクレイドが、困った顔をして片手を上げた。
ああ、クレイドのこと忘れていたわ。
「もしかして殿下にまだ説明してなかったのか?」
「うん、だってさっきはいちごを探すことを優先してたし、帰り道はロダンがいたし。流石に外で話す内容じゃないでしょ」
「まあ、確かに。だいたい話したからといって簡単に信じられる内容じゃないからな」
兄様はクレイドの顔を伺うように顎にて手を当てると「うーん」と唸って考え込んだ。
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