第36話 転生者

「転生者というのは?」

 まあ、そこからですよね。この世界には前世も生まれ変わりという概念もない。

 私は簡単に今の世界に生まれる前の記憶があることを話したが、クレイドはなかなかピンと来ていないようだった。



「まあ、信じられないでしょうけど」

「いや、理解はできないけど信じるよ」

 え?

 そんなにすぐに信じちゃっていいの?

 変な人認定とかされると思っていたけど。


 私が本当にそれでいいのか? という目で見ているとクレイドはもう一度小声で「信じてるから」と呟いた。


 あらら、ちょっと感動かも。

 兄様は身内だからある程度信じてくれているのはわかるけど、全くの他人のクレイドから言われるとかなり嬉しい。

 うっかりキュンしちゃった。


「ちょっと、二人とも変な雰囲気は出さないでくれるかな。僕が一番初めにローズに打ち明けられたんだから。クレイド殿下は二番目ですからね」

 兄様が訳のわからないことを言って私たちの間に割り込んでくる。


 まったく、子供じゃないんだから。


「もしかして、僕はこのままだと殺される?」

 クレイドったら鋭い。

 一応、その辺は濁したんだけどな。




「どうしてそう思うの?」

「だってローズ。初めてあった時、僕のこと暗殺されそうだって言っていただろ。あれはそう思ったんじゃなくて知っていたから同情してくれた」

 あちゃー。私ってば口を滑らせすぎでしたね。

 てか、記憶力よすぎじゃない?


「そうよ。だから後ろ盾じゃなくて国外移住を進めたの」

「なるほど……そうだったのか」

「怒った?」

「いいや、怒るわけないだろ。暗殺される心当たりは山のようにあるしね。フローズン卿に保護を頼んでくれたのもそれでか」

「まあ、彼のところが一番安全かなと思って」

「ありがとう」

 泣きそうな声でクレイドは呟く。


 うわぁー。

 なんか、可愛くて頭をわしゃわしゃしたい。

 そう思って手を伸ばすと、私より先に兄様がクレイドの頭を力一杯撫で回した。



「暗い! 殿下アルデンヌ家の後ろ盾とアルフレット辺境伯の後ろ盾があって簡単に暗殺されるわけないだろ。もっと、堂々としていてもらわないと困りますね」

 ニヤリと兄様が不敵に笑う。

 兄様って……さすが腹黒、めちゃくちゃ頼りになりそうな顔だ。

 クレイドはそんな兄様を唖然として見上げたが、「ふふふ」と照れたように笑った。




「じゃあ話をもどすね。問題が一つ。フェリシアが考えるように、ここがゲームの世界だとすると私よりずっとイベントに詳しいはずなの」

「ゲーム?」

「うん。小説をモチーフにして作られたもので、例えるなら……そうね、芝居みたいなものかな。有名な芝居になると時代や演出家によって解釈が異なり結末も変化していくでしょ。ゲームは結末の選択肢がさらに増えたものかな」


「やっぱり理解できないな」

 ゲームを知らない人間からしたら、理解は難しいだろう。

 うまく説明できないのがもどかしい。


「まあ、そうよね。私達の阻止したい未来につながるストーリーが何パターンか増えたってことなんだけど、もうそこは理解しなくて大丈夫」

 何だか、自分で説明していて情けないが大切なのはそこではない。私の話を信じてくれるかくれないかだもの。


「私は小説を読んで、いちごは王宮の庭に現れると思っていたけど、実際はフェリシア様の言う通り狐狩りの日でした」

「つまり、フェリシアの知っている未来の方が正しいということか。それは警戒が必要だな」

 兄様が片眉をあげる。


「そう。でもいいこともあったわ。フローズン卿がクレイドのことを快く引き受けてくれたの」

「フローズン卿が?」

「うん、嬉しそうにご機嫌で」

 兄様は腕組みをすると、人差し指をトントンしながら考え込んでしまった。

 昔から、こんな時に話しかけても返ってくる答えは適当なもので、私は黙って復活するのを待つ。


「想像できない」

 私がケーキを食べ終わるころ、兄様がポツリとつぶやいた。


「何がですか?」

「だってあいつは怪物だぞ。今までお父様と密談しているのを見かけたが笑うどころか、瞬きすらしないんじゃないかと思ってた」

 兄様ったら、いくら何でも瞬きくらいするでしょう。


「僕もフローズン卿が笑っているのを見た」

 クレイドの言葉を聞いても、いまだ半信半疑の兄様に森での出来事を話して聞かせる。




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